*医学は喩えると、空気の読めないガサツなおじさん第8回
◆原因は特定できるか
9番ボールがコーナーポケットに落ちるのを或る一点のせいにするってのは、その一点を「状況に関係なく9番ボールをコーナーポケットに落とすもの」(9番ボールをコーナーポケットに落とす原因)ってことにし、その一点があれば、当然、9番ボールがコーナーポケットに落ちるってことにすることだって、いま確認したじゃないですか。でも、そんな一点を特定しようとして、実際に9番ボールがコーナーポケットに落ちた或るひとつのケースを穴が空くほど見つめていても、どの点をそうしたものと認定すればいいのか、皆目わかってきません、ね? そこで、9番ボールがコーナーポケットに落ちた他のケースも調べてみようということになります、ね?
だけど、同様のケースのものを複数集めてきたら、なぜ急にその一点が特定できるようになるんですかね?
こう考えてるってことなんじゃないですか、ね?
それら複数のケースには共通の一点があるはずである。それがどのケースでも、9番ボールをコーナーポケットに落としたんだ。その「共通の一点」こそ、いま探し求めている「状況に関係なく9番ボールをコーナーポケットに落とすもの」なんだ、って。
でも、「状況に関係なく9番ボールをコーナーポケットに落とすもの」にはいろんな種類のものがあって、それら複数のケースで働いたのは互いに異なるものだったって可能性も、最悪考えられるじゃないですか。9番ボールがコーナーポケットに落ちたケース1では、「状況に関係なく9番ボールをコーナーポケットに落とすものA」が働いたが、9番ボールがコーナーポケットに落ちたケース2では、「状況に関係なく9番ボールをコーナーポケットに落とすものN」が働いたっていうふうに。で、もしそうなら、9番ボールがコーナーポケットに落ちたケースを複数集めてきても、それぞれのケースごとに別個に、働いた「一点」が何であったか、特定しなくちゃなんなくなって、振り出しに戻りますよね? 結局、「状況に関係なく9番ボールをコーナーポケットに落とすもの」は特定不可能だってことになりますよ、ね?
「状況に関係なく9番ボールをコーナーポケットに落とすもの」がこのように各ケースで異なっていれば、いま見たように都合が悪いじゃないですか。そこで、出来事を一点のせいにするひとは、何の根拠もなしに決めつけちゃいます。「状況に関係なく9番ボールをコーナーポケットに落とすもの」は、9番ボールがコーナーポケットに落ちたどのケースでもみんなおんなじなんだ、って。
(因果関係というとひとが挙げたがる下記哲学者の著書でも、そうした無根拠な決めつけがいきなり為されていませんか、ね?)
- 作者: デイヴィドヒューム,David Hume,大槻春彦
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1995/03
- メディア: 文庫
- 購入: 2人 クリック: 4回
- この商品を含むブログ (14件) を見る
でも都合良くそう決めつけて、それら複数のケースに「共通している一点」を探してみても、そんな「共通の一点」なんか見つからないと思いません? 9番ボールがコーナーポケットに落ちるケースを複数、ようく想像してみてくださいよ。果して「共通の一点」なんかありますかね?
まあ、都合の悪いケースを無視したり誤魔化したりすれば「共通の一点」を見つけたことにできるでしょうけど(皮肉で言っていますよ)。
そもそも探しているのは「状況に関係なく9番ボールをコーナーポケットに落とすもの」ですよ? それがあれば、当然、9番ボールがコーナーポケットに落ちるそんな一点ですよ? そんな一点、この世にあると思います?
それにだいだい、出来事を一点のせいにすることなんかできないってことだったじゃないですか。なら、どうなります? 出来事を一点のせいにするっていうのは、その一点を「状況に関係なく当の出来事を起こすもの」(当の出来事を起こす原因)とすることですよ、ね? 出来事を一点のせいにすることができないなら、「状況に関係なく当の出来事を起こすもの」(当の出来事を起こす原因)もこの世に存在しないってことになるに決まっているんじゃないですか、ね?
前回(第7回)の記事はこちら。
このシリーズ(全12回)の記事一覧はこちら。