(新)Nothing happens to me.

科学には人間を理解することが絶対にできない理由がある

医学のように統合失調症の原因を特定しようとすると起こることを確認する《5/5》

*医学は喩えると、空気の読めないガサツなおじさん第9回


統合失調症をウィルス一点のせいにする

 医学は統合失調症を脳のなかの一点のせいにするって先に言ったじゃないですか。で、脳のなかにそうした一点があるのをさらに、遺伝子変異もしくはウィルスという一点のせいにするんだ、って。ついいまさっき、その、遺伝子変異のせいにするほうを見ました、ね? じゃあウィルスのせいにするほうも最後に見ておきますか

統合失調症の人は、一月から四月の、冬から早春に生まれた人に多いことが知られている。逆に、南半球では、七月から九月生まれの人に多い。この事実は、統合失調症の原因と何か関係があるのではないかと考えた人も多く、さまざまな説明がなされてきたが、そのうちもっとも有力なものの一つは、ウィルス感染説である。


 母親の胎内にいるときに、母親がインフルエンザなどに感染することで、神経系の発達が障害されて脆弱性を抱え、発症しやすくなるのではないかというのである。実際妊娠中にA型インフルエンザに感染したとき、発症リスクが高まるとの報告がある。最近の研究でも、妊娠初期に母親がインフルエンザに感染すると、生まれた子どもが統合失調症にかかる危険は七倍になると報告されている(岡田尊司統合失調症PHP新書、2010年、165〜166頁)。

統合失調症 (PHP新書)

統合失調症 (PHP新書)

 


 だけど、統合失調症をインフルエンザウィルス一点のせいにするためには都合の悪いデータを無視しないといけないんじゃないですかね。ほら。

 もっとも、夏生まれの人にも、統合失調症を発症する人はたくさんいる。最近の報告によると、陰性症状を発症の中心とする統合失調症は、夏生まれの人に多いという結果が示されている(同書166頁)。 


 他にこんなことも言われているそうじゃないですか。

 ウィルス感染が関与しているケースは、ほかにも知られている。二〇〇一年、ジョンズ・ホプキンズ大学小児医療センターの研究チームは、一部の統合失調症の原因が、Wレトロウィルスの感染によるとする研究結果を発表した。患者の脳脊髄液を調べると、急性期の患者の三〇パーセントから、感染を示すRNAが認められたが、対照とした他の患者や健常者からは、一例も認められなかったという(前掲におなじ)。


 急性期の患者に限ったうえさらにそのなかの70%を無視するというのでなければ、統合失調症をWレトロウィルスのせいにすることはできない、ってところですかね? でも、さすがにそれじゃあ、このWレトロウィルスを統合失調症の原因ウィルスってことにするには無理があるんじゃないのかなあ。で、もし実際に、無理があるってことになったら、医学はそのときどうするとみなさん思います? 出来事を一点のせいにしようとしているのがそもそも不適切なんじゃないかってみずからを疑ってみると思います? 俺ならこう予測しますね。医学はそのウィルスを統合失調症を発症させる原因の一片だってことにしておいて、再度、統合失調症を発症させる原因の特定作業をし直すんじゃないか、って。


 ほら、さっきの引用のつづきを見てくださいよ。

 ただし、ウィルス感染説は、多様な原因の一つを説明するにすぎない(前掲におなじ)。



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付録

  • 科学者・中村桂子さんは下の著書で、身体に起こる出来事を遺伝子一点のせいにすることはできないと、くり返し、警鐘を鳴らしてません?
ゲノムが語る生命 ―新しい知の創出 (集英社新書)

ゲノムが語る生命 ―新しい知の創出 (集英社新書)

 
  • 身体に起こる出来事を一点のせいにできると考える大科学者・リチャード・ドーキンス氏は、下の本で、「溺れた仲間を助ける遺伝子」なるものさえ想定していますね。
利己的な遺伝子 <増補新装版>

利己的な遺伝子 <増補新装版>

 


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