*医学は喩えると、空気の読めないガサツなおじさん第9回
◆統合失調症を脳内物質一点のせいにする説
統合失調症を、脳内物質のうちの一点のせいにする説もあると言いますね? でも、そうした説を立てることもまた、できないんじゃないのかなあ、都合の悪いデータを無視したり誤魔化したりすることなしには? だって、しつッこいようですけど、出来事を一点のせいにすることなんかそもそもできないじゃないですか、ね?
第二章で、幻覚妄想に効果がある薬として登場したクロルプロマジンは、統合失調症の治療を大きく変えたことを述べた。その後、クロルプロマジンの効果は、ドーパミンD2受容体を遮断する作用によることが判明し、統合失調症はドーパミンの過剰によって起きるというドーパミン仮説が提起された(岡田尊司『統合失調症』PHP新書、2010年、171頁、ゴシック化は引用者による)。
統合失調症を、いくつかの都合の良いデータしか見ないで、脳のなかのドーパミン過剰という一点のせいにしたんじゃないですか、ね?*1 ほら。
だが、この仮説では、うまく説明できない事実がいくつかあった。(略)
たとえばその一つは(以下略)。
また、ドーパミンの過剰放出が根本的な原因であるのならば、そもそも、D2受容体を遮断する薬剤が十分に効かないケースが少なからずあるのは、どうしてなのかという疑問があった。そもそもドーパミンの過剰放出は、なぜ起こるのかという根本的な疑問もある。ドーパミン仮説の欠陥を、多くの人が認めざるを得なかったのである(同書173〜174頁、ゴシック化は引用者による)。
そこで医学は、ドーパミンの過剰を、探し求めている一点(統合失調症を発症させる原因)の一片であることにしておき、再度あらたにそうした一点の特定をやり直したって言うじゃないですか。出来事を一点のせいにすること自体、誤りなんじゃないかと疑ってみることもなしに、ね?
ドーパミン仮説の限界に対して、統合失調症の複雑なメカニズムを説明する理論として新たに登場したのが、「グルタミン酸仮説」である。前項でも述べたように、グルタミン酸は興奮性の神経伝達物質で、大脳皮質を構成する錐体細胞と呼ばれるピラミッド型の細胞には、グルタミン酸の受容体が遍く分布し、錐体細胞同士の信号伝達は、このグルタミン酸が介して行われている。そのためグルタミン酸は、精神活動の幅広い領域にかかわっているのである。統合失調症の「グルタミン酸仮説」は、このグルタミン酸系の過剰活動が、この疾患の症状形成に関与しているという理論である(同書178〜179頁、ゴシック化は引用者による)。
でも、何度だって言いますよ、出来事を一点のせいにすることはできませんよね、って。探し求めている一点(統合失調症を発症させる原因)をグルタミン酸の過剰に求める説も、いくつかの都合の良いデータしか見ないで立てられたものであって、後日、追試でその説の真偽を確かめようとし、その説に都合の悪いデータに出くわすことになった他のひとたちに、異を唱えられることになるんじゃないですか、ね?*2
それとは別に、統合失調症を脳のなかの酵素一点のせいにしようとするつぎのような説もあるそうですよ。
二〇〇三年、マサチューセッツ工科大学の利根川進教授らのグループは、カルシニューリンという酵素を構成するサブユニットに、統合失調症と関連する遺伝子変異が見られることを報告した。この遺伝子変異は、白人にも黒人にも認められ、その後、日本人でも統合失調症と強い関連が認められている。
カルシニューリンは、神経系の働きを調整する酵素であるが、ドーパミン系とグルタミン酸系が合流する部分で、調整を行っている酵素でもある。長期抑制と呼ばれる働きや神経成長因子の活性を調整する役割も担っている。カルシニューリンの異常は、ドーパミンD1系‐NMDA系の過剰活動や認知機能障害、さらには神経細胞の萎縮を、うまく説明できるのである。
カルシニューリンの変異が、統合失調症の発症の原因であるという「カルシニューリン仮説」は、ドーパミン仮説やグルタミン酸仮説を統合する理論となりうるのである(同書185〜186頁、ゴシック化は引用者による)。
医学が、ドーパミンやグルタミン酸の過剰を「状況に関係なくひとに統合失調症を発症させるもの」(統合失調症を発症させる原因)の一片であることにしたってこと、先に確認したじゃないですか。そうしておいたドーパミンやグルタミン酸の過剰をここで医学は、カルシニューリンと都合良くつなげて、統合失調症の発症メカニズムなるものを作ろうとしているってことなんじゃないですか、ね?
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