*科学するほど人間理解から遠ざかる第19回
さて、「絵の存在否定」という不適切な操作をなした結果、大木が俺に見えていないことになるのをいま確認しました。俺がその瞬間に目を閉じていようが、開けていようが、はたまたサングラスをかけていようが、大木に背を向けていようが、あるいは大木のほうを向いていようが、大木は見えないままで、何ら変わらない、ということになりました。
西洋学問ではここで一気に大木を、ただ無応答で在るだけのもの(客観的なもの)と決めつけます。
すなわち、大木を、そのとき俺が目を閉じていようが、開けていようが、サングラスをかけていようが、大木に背を向けていようが、大木のほうを向いていようが、「何ら変わることのないもの」と考えるにとどまらず、そのとき俺が遠く離れたところから眺めていようとも、至近距離から見ていようとも、太陽が雲間にかくれていようとも、雲間から太陽が顔を覗かせていようとも、「何ら変わることはないもの」とまで決めつけるというわけです。
しかし先ほどからみなさん、つぎのようにおっしゃりたくてウズウズしておられたのではないでしょうか。
「でも、その瞬間、お前さんに大木が見えていないことになると言ったって、現にお前さん、そのとき大木の姿を目の当たりにしているじゃないか」と。
西洋学問はそうしたまっとうな指摘にこう対処します。
まず、その瞬間、俺に大木が見えていないということにするために、意識とか精神とか心とかコギトとかとよばれるもの(ほんとうはこの世にそんなものは存在しませんが)を説明にもちだしてきます。そして、その瞬間に俺が現に目の当たりにしている大木の姿(ほんとうは俺の前方数十メートルのところにあります)を、俺の心のなかにある映像にすぎないことにし、俺の前方数十メートルの場所には代わりに、ちょうどいま申し上げました、見ることのできない、ただ無応答で在るだけの大木が実在しているということにします。
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