*コーヒー疫学、違いをひとつにしぼらない第3回
ところが、国立がん研究センターを中心になされたこの調査*1では、グループ間の違いをたったひとつにしぼりこむようなことはしていない。
なぜか。
それは、グループ間の違いを、たったひとつにしぼる必要をみとめていないということである。
では、なぜ、グループ間の違いをたったひとつにしぼる必要をみとめないのか。
この調査は、一日に摂取するコーヒーn杯を、どんな場合でも、ひとの身体のなかに同じ出来事を引き起こすものとし、一日に摂取するコーヒーn杯が「どんな場合でも、ひとの身体のなかに引き起こすその同じ出来事」とは何なのかを知ろうとしたものである。つまり、一日に飲むコーヒー1杯未満や、一日に飲むコーヒー1〜2杯、一日に飲むコーヒー3〜4杯、一日に飲むコーヒー5杯以上それぞれが、「どんな場合でも、ひとの身体のなかに引き起こす同じ出来事」とは何かなのかを突きとめようとしたものである。そしてこの調査はじっさいに、一日に飲むコーヒー1杯未満は、どんな場合でも、心臓病等による死亡率を0.09%低下させるという出来事を身体のなかに引き起こし、一日に飲むコーヒー1〜2杯は、どんな場合でも、心臓病等による死亡率を0.15%低下させるという出来事を身体のなかに引き起こし、一日に飲むコーヒー3〜4杯はどんな場合でも、心臓病等による死亡率を0.24低下させるという出来事を身体のなかに引き起こし、一日に飲むコーヒー5杯以上はどんな場合でも、心臓病等による死亡率を0.15%低下させるという出来事を身体のなかに引き起こすと結論づけている。
そのように、一日に摂取するコーヒーn杯が、「どんな場合でも、身体のなかに同じ出来事を引き起こす」ということなら、肉を十分食べているひとであろうと、粗食ですませているひとであろうと、喉が渇いているひとであろうと、身体が弱いひとであろうと、元気なひとであろうと、すぐ吐き気を覚えるひとであろうと、すぐ胃が痛くなるひとであろうと、繊細なひとだろうと、鈍感なひとだろうと、とにかく一日にコーヒー3杯を飲みさえすれば、身体のなかに同じ出来事が引き起こされることになる。したがって、一日にコーヒーを3杯飲むグループが、肉を十分食べるひとたちばかりに占められている場合であっても、あるいはその反対に、肉を少ししか食べないひとたちばかりに占められている場合であっても、調査から25年後の心臓病等による死亡率は共に同じになると考えられることになる。こうして、追跡調査するグループ同士の違いを、たったひとつ、すなわち「一日に飲むコーヒーの杯数の違い」だけにしぼる必要はないということになるわけである。
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*1:参照記事:コーヒーで「死亡率下がる」「がんになりやすい」 どっちが正しいの?