(新)Nothing happens to me.

科学には人間を理解することが絶対にできない理由がある

俺氏、コートから色をとりのぞく超絶手品をご披露するの巻

デカルトの超絶手品ぁ〜ニャで科学は基礎を形作る第5回


 前回、ミドリ色のコートを用いて確認しましたように、存在は、「他と共に在るにあたってどのようにあるか」という問いに逐一答えるものです。にもかかわらず、事実に反して存在を、無応答で在るものと解すればどうなるか、引きつづきコートを例に確かめてみましょう(ただし話を簡単に進めるために、いまの場合、俺のコートは終始、占めている位置を変えないと仮定してください)。


 これから俺のその愛しのコートを、事実に反して、無応答で在るものとしてみます。つまり、俺のコートは、俺が目をつむって対峙しようが、サングラスをかけて見ようが、両目をヒン剥いて眺めようが、オレンジ色の電灯のもとで見ようが、LEDの光のもとで見ようが、暗闇のなかで見ようが、これひとつとして違いを見せることはないと考えてみます。


 しかし最初に確認しましたとおり、実際のところ俺のコートは、「他と共に在るにあたってどのようにあるか」という問いに逐一答えます。俺が目をつむって対峙するとき、サングラスをかけて見るとき、両目をヒン剥いて眺めるとき、オレンジ色の電灯のもとで見るとき、LEDの光のもとで見るとき、暗闇のなかで見るときで、それぞれ異なった色の姿を呈します。そのように見方や明かりが変わっても、俺のコートは「これひとつとして違いを見せることはない」などということはありません。


 よって俺のコートを、どんな見方をしようが、どんな明かりのもとで見ようが、「これひとつとして違いを見せることはないものと考えるためには、目をつむって対峙するとき、サングラスをかけて見るとき、両面をヒン剥いて眺めるとき、オレンジ色の電灯のもとで見るとき、LEDの光のもとで見るときといったそれぞれの場合にコートが実際に呈する姿ひとつひとつのあいだに認められる違い(いまの例では色の違い)ほんとうは当のコートには属していないものとして、それら実際の姿それぞれから取り除かなければならなくなります。すなわち俺のコートから色を、ほんとうは当のコートには属していないものとして取り除かなくてはならなくなります。けれどもそうして取り除きさえすれば、そのあとには、目をつむって対峙しようが、サングラスをかけて見ようが、両目をヒン剥いて眺めようが、オレンジ色の電灯のもとで見ようが、LEDの光のもとで見ようが、「これひとつとして違いを見せることのないものだけが残ることになります。そうして残るものこそ、無応答で在るところのコート(ほんとうのコート)だと考えられるようになります。


 いまやった夢のような超絶手品をもういちど確認します。俺の愛しのコートは実際のところ、「他と共に在るにあたってどのようにあるか」という問いに逐一答えるものです。それは、俺がどう見るかで姿を変えます。どのような明かりのもとで見るかでも姿を変えます。にもかかわらず、事実に反してこのコートを、無応答で在るものと考えると、つまり、俺がどんな見方をしようが、どんな明かりのもとで見ようが、「これひとつとして違いを見せることはない」ものと考えると、当のコートの実際の姿から、色をほんとうは当のコートには属していないものとして取り除かなくちゃなんなくなるということでした*1

つづく


前回(第4回)の記事はこちら。


このシリーズ(全9回)の記事一覧はこちら。

 

*1:2018年10月4日に、内容はそのままで表現のみ一部修正しました。