*デカルトの超絶手品ぁ〜ニャで科学は基礎を形作る第4回
先ほど、俺の愛しのコートはかつてミドリ色だったと申しました。聞いてください。当時こんなことがありました。そのときの俺は急いでいました。ところが、まさにクローゼットからそのミドリ色のコートをとって家を飛び出そうとする段になって、肝腎の当のコートが見つからないことに気づきます。クローゼットのなかをひとつひとつ確認してもみました。ダウン・ジャケットがある、スーツがある、コートがある、しかし黒色である、パーカーがある、スーツがある、コートがある、これも黒色である、礼服がある、スーツがある、ポンチョがある、コートがある、残念ながら紺色である・・・・・・。
事情があり、ひっかけて出るのはどうしてもミドリ色のコートでなければなりませんでしたが、なんど見返しても、ミドリ色のコートは見つかりません。時間がただ過ぎていきます。またそんなときに限って、事件は重なるものです。自分の右手がふと目につきました。なんということでしょう、その手のひらに多量の黒い点々がついているではありませんか。
ついさっき手で口を覆ったときについたものだろうと思われました。数十分前に食べた、昨晩のお好み焼きの残りが強く疑われました。そのうえにかかっていた青のりなのではないか。歯にべっとりと青のりがついていることがかたく予想されもしました。これでは俺のトレード・マークであるニカッと歯をむくサルのような笑顔をひとに見せることができなくなります。矢も楯もたまらず、すぐさま洗面所に飛びました。そして向き合ったカガミのなかに見たわけです。トンボ・マンを。トンボの目玉のように大きなレンズのサングラスをかけた男を。
俺でした。
マッハの速度で俺は駆け出し、100円ショップで買ったサングラスをいったん大事に外してから、急いでクローゼットのなかに頭を突っこみました。そして次の瞬間にはもうミドリ色の一陣の風となって、街角を駆けぬけていたという次第です。ほほえむ口元からもミドリ色をのぞかせながら。
俺のミドリ色のコートはいろんな色を呈しました。いまお話ししましたように、サングラスをかけると、紺色に見えましたけれども、サングラスをかけなくても、光の加減で紺色に見えることもありました。暗闇では黒にも見えました。いっぽうさんさんと太陽光がふりそぞくもとでは、ミドリ色と言うより、黄ミドリ色に見えたといったほうが正確です。曇った日には、ちょっと白っぽくも見え、そこがまた気に入ってもいました。また俺が目をつむれば一転そのコートは、「見えないありよう」とでも言うしかない姿を俺の前でとったものでした。
かくのごとくコートは、「俺の身体と共に在るにあたってどのようにあるか」という問いに答えて姿を変えたり、「明かりと共に在るにあたってどのようにあるか」という問いに答えて、姿を変えたりします。このコートのように存在は、「他と共に在るにあたってどのようにあるか」という問いに終始答えるものだと言えます。にもかかわらず、事実に反して存在を、無応答で在るものと考えればどういうことになるでしょうか*1。
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*1:2018年10月3日に、内容はそのままで表現のみ一部修正しました。