(新)Nothing happens to me.

科学の欠点、限界、見落としている大事なもの

正常異常の区別がひとに対してつけられる未来はやって来るか①作り手

障害という言葉のどこに差別があるか考える第8回

 正常異常の区別は機械に対してはつけられても、ひとに対してはつけられず、にもかかわらずひとを正常と異常に振り分ければ、不当な差別をしていることになる、という結論にたどり着きました。


 しかし反論は尽きまじ。いまにもこうした声が聞こえてきそうです。


 ご一緒にお聞きください。


「お前さんの言ってきたことを百歩、いや百億万歩ゆずって認めてあげるとしてもだよ、遺伝子工学の進歩のおかげで、ひと自身がひとの作り手になる日はきっと来るよ。ひと自身がひとについての設計図を書き、DNAの塩基配列を操作して、ひとを作りあげる日がね。するとどうなる? 『機械の作り手はひとだ。ひとの作り手もいまやひとだ。正常異常の区別が機械に対してつけられるなら、ひとに対してもつけられる』ってことになるんじゃないかね? ちがう? いやちがわない。いまのところは、ひょっとするとお前さんが言うように、正常異常の区別は機械に対してはつけられても、ひとに対してはつけられないのかもしれない。お前さんの言ってきたことがマグレ当たりしている可能性は無いではない。けどね、いま言ったように、遺伝子工学が進歩して、ひと自身がひとの作り手になった暁には、ひとに対しても正常異常の区別がつけられるようになるのは明白だよ。あまりにもね。さあどうだ」


 ここまで、ひとに対しては正常異常の区別がつけられないということを、ひとの作り手に着目して確認してきました。それを第1章としますと、いまからはじまるのは第2章です。第2章では、正常異常の区別は実は機械に対してすらつけられず、ひとに対して正常異常の区別がつけられるようになる日は永遠にやってこないことを確認します。


 みなさん、お力をお借しください。いまから機械がちゃんと動かない(作り手の望みどおりには動かない)場面をふたつご想像いただきます。


 早速、ひとつ目に参ります。みなさんは、俺が自作の機械製品をいじくりまわしているところに、訪ねていらっしゃいました。そのみなさんに俺は事情をつぎのようにご説明します。機械の動作が異常なのです。なぜかうまく動かなくなったのです。おかしいなあ。おい、出来損ないのポンコツ野郎、動けよ(コツンと音がする)、と。


 機械に正常異常を言うとは、機械が《作り手の定めたとおりになっていない》のを問題とし、機械が〈作り手の定めたとおりになっている〉のを正常、機械が《作り手の定めたとおりになっていない》のを異常と呼ぶことでした。みなさんのご想像のなかで俺は、自作の機械がちゃんと動かないのを、《作り手の定めたとおりになっていない》ことと見、異常と表現したわけです。


 ところが工学者でおられるみなさんは、そのあと俺がしきりにdarnとかmy goodnessとかつぶやきながら機械内部をいらいまわすのをご覧になっているあいだ、まったく正反対にこうお考えになります。


  ああ、なるほど、彼はこんなふうに機械を設計して、ほうほうこんなふうに部品を組み合わせたんだね。そりゃ、機械が動かなくなるのは当然だよ。そんな部品をこんなふうに組み合わせれば、動かなくなるに決まってる。まさにこの機械がちゃんと動かないのは、〈作り手の定めたとおりになっている〉と言うべきことだよ。《作り手の定めたとおりになっていない》なんて、異常だなんて、ああ、言えないな。


 では、この機械がちゃんと動かないのを俺が異常と判定したのはいったい何だったのでしょうか。


  これは作り手が『ちゃんと動くように機械を作ることができていない』というだけのことにすぎない。機械がちゃんと動かないのはまさしく〈作り手の定めたとおり〉。機械がちゃんと動かないことの非は作り手にあるよ。だのに彼ときたら、「ちゃんと動くように機械を作ることができている」のに、機械がちゃんと動かないのだと正反対に受けとり、機械がちゃんと動かないのを、《作り手の定めたとおりになっていない》ことと解釈して、機械のほうに、ちゃんと動かないことの非をなすりつけ、おお、異常扱いしているのだな!


 機械がちゃんと動かないことの非が作り手にある場面を、いまみなさんにご想像いただきました。そしてこの場合、機械がちゃんと動かないのを異常と判定するのは不適切であるとご確認いただきました。


 ふたつ目の場面についてもこれから同様に見て参ります。で、そのあといま確認しましたところも考え合わせ、ひとつの結論に達したいと考えております。

つづく


注:配信日を一日まちがえてしまいました。


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