(新)Nothing happens to me.

科学には、人間を理解することを妨げる理論的欠陥がある

血管性認知症①:運動性失語(言葉が自由に出てこない)の意味は何か(3/5)

認知症の人間の言動は理解不可能か・第14回

2/5に戻る←)


◆運動性失語(言葉が自由に出てこない)

 では最初に、運動性失語の説明をもう少し詳しく聞いてみよう。

説明1

ブローカ(運動性)失語ブローカ野が損傷を受けると、たいていの場合、言葉の意味は理解でき、どのような返答をしたいかは分かっていますが、それをうまく言葉にすることができなくなります。


患者は非常に苦労しながら、言葉をゆっくりと押し出すように話し、ときおり感嘆詞を挟みつつも、本人は言っている内容を理解しています。


正常な発話のリズムや強弱も失われます。


同じフレーズを繰り返すのが困難になります。ほとんどの患者は単語を書くことができません。

◆サイト名

MSDマニュアル家庭版「失語-09.脳、脊髄、末梢神経の病気」

◆URL(2025年10月5日17:40分最終確認)

https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/09-%E8%84%B3-%E8%84%8A%E9%AB%84-%E6%9C%AB%E6%A2%A2%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E8%84%B3%E3%81%AE%E6%A9%9F%E8%83%BD%E9%9A%9C%E5%AE%B3/%E5%A4%B1%E8%AA%9E#%E5%8E%9F%E5%9B%A0_v26414394_ja


説明2

ブローカ失語(運動性失語)とは、言葉を理解することはできるものの、自分が話す時はうまく言葉が思い浮かばないというタイプの失語症です。


思考を言語に変換する「運動性言語野」が障害されることによって生じます。


話す際にたどたどしくなったり、音が歪んでしまったりする発語失行を伴うケースが多く、主な症状としては、例えば「みかん」を「みたん」と間違えて発音してしまう音韻性錯語や、言いたい言葉がうまく出てこなくなる喚語困難などが見られます。


その一方で、単語や決まり文句などの短い言葉なら話すことができるというのも運動性失語(ブローカ失語)の特徴の一つです。

◆サイト名

医療・福祉のお仕事事典「失語症とは?言葉がうまく使えなくなる原因や症状、他の障害との違いを解説 」

◆URL(2025年10月5日17:40分最終確認)

https://www.kmw.ac.jp/contents/st/about-aphasia


 いまの説明を読んでみなさんは、俺たちの誰もが経験する或る言語段階を連想したのではないだろうか。


 それは子供が母国語の発話能力を身につけているときの初期段階や、成人が外国語の発話能力を習得している(あくまで、聞けて話せるという能力の習得に限る)際の初期段階である。


 運動性失語は先の説明1と2ともに簡潔にこうまとめられていた。

言葉の意味は理解でき、どのような返答をしたいかは分かっていますが、それをうまく言葉にすることができない

言葉を理解することはできるものの、自分が話す時はうまく言葉が思い浮かばない


 それはまさにいま俺たちが連想した、子供が母国語を話す能力を習得しているときや、成人が外国語の発話能力を身につけようとしている際の初期段階にぴったり当てはまる記述ではないだろうか。


 運動性失語の更に詳しい特徴を見てみよう。説明1と2で挙げられていたものを箇条書きにするとこうなる。

  • (a)話す際にたどたどしくなったり、音が歪んでしまったりする発語失行を伴うケースが多い
  • (b)例えば「みかん」を「みたん」と間違えて発音してしまう音韻性錯語がある
  • (c)言いたい言葉がうまく出てこなくなる喚語困難などが見られる
  • (d)単語や決まり文句などの短い言葉なら話すことができる
  • (e)同じフレーズを繰り返すのが困難
  • ((f)単語を書くことができない)


 これら特徴も子供の母国語発話能力習得時や成人の外国語発話能力習得時の初期段階に見られる特徴ではないか? それら初期段階ではリスニング能力が発話(以後スピーキングと表す)能力に先行する。そして、

  • ひとの言っていることをかなりの程度で理解できるが、いざ話そうとすると単語が頭に浮かんでこない((c)換語困難)
  • 文章を組み立てるのに四苦八苦する((a)たどたどしくなる)
  • 言葉をうまく発音できない((a)発音が歪む)
  • タマゴをタガモ、grassをglassと発音してしまうといったような言い間違いをする((b)音韻性錯誤)
  • 親や先生たちの口にした言葉を繰り返せない((e)。それをここではシャドーイング能力と呼ぶことにしよう。その能力を獲得したとき子供は、何を話かけてもこちらのオウム返しをして喜ぶようになることがある。外国語習得者もスピーキング能力習得のためにシャドーイングをしたりするが、最初はなかなかうまくできないけれども、あるとき他人の言葉を自分が軽々と空で繰り返すことができるようになっていることに気付いて、自分のスピーキング能力の向上に驚くことがある)。


 このように運動性失語の(a)から(e)までの特徴も、子供のスピーキング能力習得時や成人の外国語スピーキング能力習得時の初期段階にぴったり当てはまる記述であるように思われる。


 したがって、この運動性失語はスピーキング能力習得時の初期段階への逆戻りと考えることもできるのではないだろうか。


 だとすれば、そのことから何が言えるか。






(→4/5へ



2025年10月7日に文章を一部修正しました。


*このシリーズの記事一覧