(新)Nothing happens to me.

科学には、人間を理解することを妨げる理論的欠陥がある

アルツハイマー型認知症④:「物盗られ妄想」をするようになる理由(3/5)

認知症の人間の言動は理解不可能か・第8回

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◆財布などの貴重品をどこかに置き忘れ、思い出すことがない

 まず前半部であるが、そこには「理解不可能」なものは何ひとつない。誰にでもそうしたことはある。珍しいことですらない。ただ、アルツハイマー認知症と診断される状態にあるひとは、そうした「置き忘れ」をする頻度が高くなっているかもしれないということはある。というのも、先のA(初期症状)の①から④までの考察から、アルツハイマー認知症と診断される状態とはこういうものではないか、ということだった。


 それまでなら集中してやれていた、料理や会話といったようなことに、意欲や興味が減退していて集中できず、「上の空」でそれらのことをしていることしばしばの状態。


 日々そのように「上の空」で物事をする場面が増えていると、そうした「置き忘れ」は起きやすくなっているのではないか、というわけである。


 どういうことか、例を用いて考えてみよう。


 たとえば、リビングでテレビをつけようとしていたみなさんが、ちょうど手に持ったリモコンのボタンを押そうとしたとき、不意に電話が鳴ったと想像してみてほしい。その瞬間みなさんの気はテレビから電話に移る。そして、電話に出たみなさんは書斎に向かいながらちょうどリビングを出る際、「上の空、たとえば近くのタンスの上にリモコンを置く。で、書斎でしばらくのあいだ話し込んだあと電話を終え、リビングに帰ってくると、自分がちょうどテレビを見るところだったことを思い出し、テレビのリモコンを再度手に取ろうとするが、タンスの上に置いたことを思い出すことなく、いつもリモコンが置いてある場所から始め、辺り一帯をリモコン求めて探し回ることになる。


 そうした体験、もしくはそれによく似た体験をみなさんもしたことがあるだろう。先に、「上の空でしていたことはついいまさっきのことでも思い出すのは難しいという物の道理を再確認したけれども*、いま想像してもらった場面で起こっていたのは、「上の空」でリモコンをタンスの上に置いた結果、その理どおり、タンスの上に置いたそのことを思い出せなくなったという現象である。

 

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*その道理を確認したのはこの回。

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 どうだろう。日々「上の空」で物事をすることが多くなっていれば、そうした「物忘れ」も起こりやすくなっているのではないかと推測することは十分理に叶ってはいないだろうか。


 さていま、A(初期段階)の④の具体例の前半部「財布などの貴重品をどこかに置き忘れ、思い出すことがない」について、「理解不可能」な要素は何も見つからないことを確認した。では次に、そのようなときに、身近にいる人(介護をしている人など)の責任にし、『盗まれた』と主張するという、当該具体例の後半部に目を移し、その部分にも「理解不可能」なことが一つとしてないことを確認しよう。





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