*短編集「統合失調症と精神医学と差別」の短編NO.46
今回は、たいした副作用など出てきっこないと勝手にいきなり決めつけてしまうという、医学の副作用の侮り方を、クロザピンという薬を例に見ています。
でも、こう言われるかもしれません。
いや、(精神)医学は副作用を侮ってなんかいないよ。お前さん、見なよ、副作用がより少ない薬剤の開発にチカラを尽くしてきた(精神)医学の姿勢を、って。
ここまでお前さんが挙げてきた抗精神病薬3つ、クロルプロマジン、ハロペリドール、クロザピンはあくまで、ひと昔まえのものであってね、現在主に使用されているもの(非定型抗精神病薬といった名でつぎの引用文中に出てきます)の副作用はぐ〜んと軽いんだ、って。
必死に副作用を減らそうと(精神)医学は実は裏で心血を注いできたんだ、こんなふうにさ、って。
で、俺が手元にもっている岡田精神科医の例の本をひったくって、あるページを開け、指で文章を指しながら、俺に突きつけてくるかもしれませんね。
そこにはこうあります。
一九九〇年代の後半から、新しく精神科臨床の場に登場した非定型抗精神病薬と呼ばれる新しいタイプの抗精神病薬は、統合失調症のみならず、精神科での治療を様変わりさせるほどのインパクトをもたらした。それは、まさに革命的と言っても過言ではない。非定型抗精神病薬がもたらした福音は、主に二つの面に関してである。
一つは、従来型の定型抗精神病薬〔引用者注:先にお前さんが挙げていたクロルプロマジンやハロペリドール等のことだね?〕と違い、錐体外路症状と呼ばれる不快な副作用が少ないという点である。手が震えたり、体が硬く、機械のような動きになったり、目がつり上がったり、じっと座っていられなくなったりする〔引用者注:え、アカシジアと呼ばれるってたしかお前さん言ってなかったっけ?〕副作用に、患者さんは悩まされてきたが、非定型抗精神病薬では、そうした症状の頻度や程度が軽くなったのである。また、副交感神経を遮断する副作用も軽度であるため、便秘や口渇などの副作用も軽い。
もう一つは、陰性症状に対する改善効果である。(略)
ただ非定型抗精神病薬は、すべてがバラ色の治療薬というわけではない。使用を重ねるにつれて、問題点があることもはっきりしてきた。その中でもっても頻繁に出合う問題は、多くのタイプで体重増加をきたしやすいということである。(略)
もう一つの問題は、意欲や活動性を高めることと表裏一体の問題で、人によって、また薬剤の種類によって、イライラや不眠、攻撃性が高まる場合があるということである(岡田尊司『統合失調症』PHP新書、2010年、pp.244-245、ただしゴシック化は引用者による)。
いまの引用文のなかに、この一連の考察で最初にとり挙げた抗精神病薬、クロルプロマジンとハロペリドールの重篤な副作用(苦しさ)があらたに挙げてありました。手が震える、体が硬く機械のような動きになる、目がつり上がる、じっと座っていられなくなる、といったものが、ね? 改めて、それらふたつの薬の副作用が決して「たいしたことのないもの」なんかではなさそうであることが図らずも追加確認できましたね。でも、それはさておき、そうした副作用は、現在使用されている定型抗精神病薬では軽くなっているとのことでした。
ほんとうにそうなら、いいですね。そうであることを望みますね? だけど、いまもまだ、抗精神病薬の副作用に苦しんでいると訴える声はしばしば聞こえてきませんか。しかも、耳に入ってくるそうした声が訴える苦しみは壮絶ではありませんか。
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そんな声が、下の本を読んでいるとき、何度も聞こえてきたような気がしました。
下の記事も印象に残ります。
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*今回の最初の記事(1/5)はこちら。
*前回の短編(短編NO.45)はこちら。
このシリーズ(全48短編を予定)の記事一覧はこちら。