*短編集「統合失調症と精神医学と差別」の短編NO.46
◆胸に兆す「そんなうまい話はあるのだろうか」という疑念
本題に入ります。
大部分の抗精神病薬は、ドーパミンD2受容体を遮断する作用をもつが、クロザピンは、唯一例外的にドーパミンD2遮断作用が非常に弱いにもかかわらず、統合失調症の症状を顕著に改善薬である。
一九六〇年代に開発されるや、この革命的な薬は、手が震えたり、体が強張ったりといった副作用を生じることなく、統合失調症の症状を劇的に改善させた。幻覚や妄想だけでなく、無気力や自閉といった陰性症状もよくなったのである。投与された患者の多くは、「元にもどった」という表現がふさわしい回復を遂げた。しかも、これまでの薬剤がまったく無効であった難治性のケースでも、顕著な改善効果が認められたのである。「奇跡の薬」が現れたと、多くの人は歓喜の声を上げた(同書pp.174-175、ただしゴシック化は引用者による)。
このように新薬を、市場に出てきたばかりの段階でいきなり「奇跡の薬」と断定し、歓喜の声を上げるというのはまさに(精神)医学が副作用を侮っていたことの紛れもない証拠ではないでしょうか。
だって、「奇跡の薬」だとか「夢の新薬」だとかと謳われながら颯爽と世に出てきた新薬がしばらくすると、重篤な副作用の出る危険な薬であるとして使われなくなったという前例はその頃すでに、あったのではないでしょうか(いまは薬のことを言っていますけど、手術などの施術でもそうしたことはあったのではないでしょうか。最初は絶対に安全であると医学は請け合っていたのに、なぜかいつの間にか、危険な施術として禁止になったものが知られていたのではないでしょうか)。
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たとえば「ロボトミー手術」なんかはどうでしょう。
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過去から学ぶみなさんなら、それが「夢の新薬」なのかどうかを見極めるには、もっと時間が要ると考え、慎重な態度を崩さなかったのではないかと、俺には思われてなりません。
「クロザピンは劇的に効くということであるけれども、ほんとうにそんなうまい話はあるのかなあ。麻薬みたいに、あとあと重篤な副作用が出てくるということがなければいいが」、って。
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「夢の新薬」と謳われて颯爽と市場に登場したものの、短期間のうちに、服用者の副作用死が相継いだ例として、俺が真っ先に思いつくのは、下記のイレッサです。グロザピンより後の話ですけど。
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*前回の短編(短編NO.45)はこちら。
*このシリーズ(全48短編を予定)の記事一覧はこちら。