*短編集「統合失調症と精神医学と差別」から短編NO.40
◆授業中、先生がわたしのことを話している
いま、事例をふたつ見終わりました。ここで、さらに時間を遡りましょう。Dさんが最初に挙げていた事例を最後に考察してみますね。
「高校生のとき、授業中に先生がわたしのことを話しているような気がした。授業が終わった後に聞いてみると、『それは空耳だよ』という返事だった」と、Dさんは言っていましたね。
授業中Dさんは先生に、たとえば、「Dは授業態度が良くないなあ」とかと思われているのではないかとふと気になったのかもしれませんね。だけど、Dさんからすると、自分がそこで、他人からの評価を気にしたりするはずはなかったのかもしれませんね。
いや、いっそ、ここでも、Dさんのその見立てを、語弊を怖れながらも、こう言い改めてみることにしましょうか。そのときDさんには、自分が他人からの評価を気にしているはずはないという自信があったんだ、って。
授業中、Dさんは先生に「Dは授業態度が良くないなあ」とかと思われているのではないかと気になった(現実)。ところが、そのDさんには、自分が他人からの評価を気にしているはずはないという「自信」があった。このように「現実」と「自信」とが背反するに至ったとき、ひとにとることのできる手は、つぎのふたつのうちのいずれかではないかと、依然、俺には思われてなりません。
- A.その背反を解消するために、「自信」のほうを、「現実」に合うよう、訂正する。
- B.その背反を解消するために、「現実」のほうを、「自信」に合うよう、修正する。
で、その場面でもDさんは後者Bの「現実のほうを修正する」手をとった。自分が他人からの評価を気にしているはずはないとするその自信に合うよう、現実をこう解した。
先生が授業中に「Dは授業態度が良くないなあ」と言っているのが聞こえてきた、って。
「先生、さっき授業中に、わたしの授業態度が良くないと言いました?」
「え、言っていないよ? それ、空耳じゃない???」
箇条書きにしてまとめてみるとこうなります。
- ①先生に「Dは授業態度が良くないなあ」とかと思われているのではないかと気になる(現実)
- ②自分が他人からの評価を気にしているはずはないという自信がある(現実と背反している自信)
- ③その自信に合うよう、現実をこう解釈する。「先生が授業中に『Dは授業態度が良くないなあ』とか言っているのが聞こえてきた」(現実修正解釈)
2021年8月12日、同年11月16日に文章を一部訂正しました。
*今回の最初の記事(1/6)はこちら。
*前回の短編(短編NO.39)はこちら。
*このシリーズ(全48短編を予定)の記事一覧はこちら。