*短編集「統合失調症と精神医学と差別」から短編NO.39
◆「急に自分の考えではない思考が脳にボン!って入ってくる感じ」
いま立てつづけに言ったことを簡単にまとめてみますよ。
悩みと不安でいっぱいになって、居たたまれなくなったそのとき、もつおさんは、「ベンチを触れば…」(ベンチを触れば大丈夫だ)と考えついた(現実)。だけど、そのもつおさんには、自分が「ベンチを触れば…」と考えついたはずはないという「自信」があった。このように「現実」と「自信」とが背反するに至ったとき、ひとにとることのできる手は、つぎのふたつのうちのいずれかであるように、俺には思われます。
- A.その背反を解消するために、「自信」のほうを、「現実」に合うよう、訂正する。
- B.その背反を解消するために、「現実」のほうを、「自信」に合うよう、修正する。
では、もつおさんはそのとき、どちらの手をとったのか。
もし選択肢A「自信のほうを訂正する」手をとっていたら、もつおさんは、そこで自分が「ベンチを触れば…」と考えついたことに驚き、思ってみなかった自分のあたらしい一面を認識することになったかもしれませんね。
だけど、その場面で実際に、もつおさんがとったのは、後者Bの「現実のほうを修正する」手だった。自分が「ベンチを触れば…」と考えついたはずはないとするその自信に合うよう、もつおさんは、現実をこう解した。
自分の考えではない「ベンチを触れば…」という思考が、急に頭のなかに入ってきた。「ベンチを触れば…」という誰かの声が聞こえてきたんだ、って。
現にもつおさんは、先のインタビュー記事のなかで、そのときのことをこう解説していましたね。
実際に声が音として聞こえていたわけではないのでなかなか表現しづらいのですが、イメージ的には急に自分の考えではない思考が脳にボン!って入ってくる感じでした。頭の中に漫画のセリフの吹き出しが入ってきて語りかけてくるような……。それがどんどん大きくなっていって私の正常な思考のスペースを奪っていかれたんだと思います。自分でも何言ってるのかわからないんですけど、恐らくこれが一番近いと思います…(ゴシック化と赤色化は引用者による)。
URL:https://ddnavi.com/interview/743585/a/
最終アクセス日時:2021年5月2日17:00
いまの一連の推測を箇条書きにしてまとめるとこうなります。
- ①悩みと不安でいっぱいになったそのとき、「ベンチを触れば…」(ベンチを触れば大丈夫だ)と考えついた(現実)。
- ②自分が「ベンチを触れば…」と考えついたはずはないという「自信」があった(現実と背反している自信)。
- ③その自信に合うよう、現実をこう解した。「『ベンチを触れば…』という誰かの声が聞こえてきた」(現実修正解釈)
そして、実際にベンチを「触ると一気にパニックは治ってスッキリし」た。「ベンチを触れば…」(ベンチを触れば大丈夫だ)と”声”が言うとおりに、ね? で、そのことから、もつおさんはその“声”の主を、神様と考えるようになった、ということなのかもしれませんね。
2021年11月16日に文章を一部修正しました。
*今回の最初の記事(1/6)はこちら。
*もつおさんがお描きになったその漫画はこちら。
*そのなかの一部が現在、無料で読めます(全11話)。
*前回の記事(短編NO.38)はこちら。
*このシリーズ(全48回を予定)の記事一覧はこちら。