(新)Nothing happens to me.

科学には人間を理解することが絶対にできない理由がある

統合失調症の「誰かに嫌がらせを受けていた事実は認められないが、本人曰く、いじめに繰り返しあっていた」「自室にいるとき、女性の顔のようなものが見える(幻視)」を理解する(2/8)【統合失調症理解#16-vol.2】

*短編集「統合失調症と精神医学と差別」から短編NO.34


◆中3の2学期頃から勉強を重荷に感じるようになってきた

 では最初に、先に挙げた2点のうちの前者、「Nさんは、勉強しないといけない身であるにもかかわらず、中学3年生頃から勉強を重荷に感じるようになってきた」というところを確認しますよ。


 いまの引用部分にこう書かれていましたよね。「幼稚園時代から塾通いをし、都心にある私立の小学校に入学している」って。さらには小学校のときから英語も習っていたということでしたね。気合いが入っていますね。向いていないと、本人にはかなりつらい境遇ではないでしょうか。


 でも、なぜそんな気合いの入ったことをしていたのか。


 エリートになるため、ではありませんか。


 高偏差値の大学に入り、ゆくゆくは名だたる企業に入社するため、ではありませんか。


 周囲の期待をNさんは幼少期から感じながら育ったのではないかと俺、想像します。


 そんなNさんは当初、勉強を頑張れていたみたいですね。先の引用文中にこうありました。

 エスカレーター式に中学に進学したが、友達はあまりできなかった。本人は当時を回想し、「一人で孤独だから、死にたいという気持ちになった」というが、学校生活では特別な問題はみられず、成績は比較的上位であった。


 成績が比較的上位だったというこのことから、頑張って勉強していたらしいと考えることができるのではないかと思いません? だけど、あるときから風向きが変わってきた。

 Nさんに精神的な変調がみられたのは、中学三年の二学期以降である。特にきっかけはなく、当時の流行曲である『春よ、来い』が一部だけ繰り返して思い浮かんだ。高校に進学してからは、さらにこの頻度が多くなり、頭の中で同じ曲が繰り返し連続して流れるようになった。


 自分で打ち消しても曲は鳴り止まず、次第に気持ちが不安定となることに加えて、集中力もなくなってくる。この音楽に関する症状は、「音楽幻聴」と呼ばれる幻聴の一種である。一般には、比較的高齢者に起こりやすい。


 これは、中学3年の2学期頃(高校受験をするひとたちが受験勉強に力を入れ出す頃ではないでしょうか)から、勉強に集中するのが難しくなってきた、ということを意味するのではないでしょうか。


 よくありますよね、つい頭のなかでずっと同じ曲を何度も再生してしまうということが?


 みなさんも経験ありません? 俺はありますし、高校生のとき、友人とそのことについて話したのをいまでもよく覚えています。


 2年後、有名国立大学理系学部に入学することになるその友人はそのとき、おなじ曲を最近、勉強中に何度も頭のなかで再生してしまうとこぼしていました。学校からの帰り、最寄り駅のホーム上での会話でした。その友人を含め、数人(そのほとんどが有名国立大学に進学したのだったと思います)が、その話題で盛り上がっていた記憶が鮮明に残っています(俺の進学先はもちろん有名国立大学ではありませんよ)。


 勉強机に座り、問題集をまえにしながらも、つい頭のなかでおなじ曲を何度も再生してしまって勉強にうまく集中できない、というようなことが、中学3年生の2学期頃からNさんの身にしばしば起こるようになっていたのかもしれませんね。


 さあ、いま、今回確認する予定にしていた2点のうちの一つを確認しました。Nさんはこの頃から、勉強を重荷に感じるようになってきていたのではないか、ということでしたね。では、つぎに、そのNさんがおなじ頃から、自分自身のことをうまく理解できなくなってきていたのではないかという2点目の確認事項のほうを見ていきますよ。





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2021年8月13,15日に文章を一部修正しました。


*Nさんのこの事例は全6回でお送りします(今回はpart.2)。

  • part.1(短編NO.33)

  • Part.3(短編NO.35)

  • Part.4(短編NO.36)

  • Part.5(短編NO.37)

  • Part.6(短編NO.38)


*このシリーズ(全48短編を予定)の記事一覧はこちら。