*短編集「統合失調症と精神医学と差別」から短編NO.28
◆フィル・コリンズも交信に加わってくる
さらに小林さんは、こうも書いています。
フィル・コリンズが自分も交信できることを主張し、僕の心臓の鼓動を支えるようにドラムを叩いてくれた。色んな人に守ってもらえて嬉しかった(小林和彦『ボクには世界がこう見えていた』新潮文庫、2011年、p.130)。
1980後半から1990年代初頭にかけ、テレビやラジオでよくフィル・コリンズ(イギリスのボーカリスト兼ドラマーで、ジェネシスというグループのメンバー)の曲が流れていませんでした? よく耳にする曲などを何かの拍子に「頭のなかで再生してしまう」ことって、みなさん、ありますよね? ずっとおなじ曲を頭のなかで延々と聞いてしまって、止められなくなった経験、みなさん誰しも、ありますね?
ひょっとすると、布団のなかにいたそのとき、小林さんは何かの拍子に、ふだんよく耳にするフィル・コリンズの曲を頭のなかでつい再生してしまったのかもしれませんね。そしてその曲のビートに胸を熱くしたのかもしれませんね。
で、お腹がグゥーっと鳴ったのを木梨からの返事と決めつけた先ほどとおなじものの見方を、ここでも、つぎのようにしたのかもしれませんね。
- ①フィル・コリンズの曲を聴いて、とっさに、これもテレパシーではないかと閃く(とっさに一可能性を思いつく)。
- ②自分の閃きが誤っているはずはないという自信がある(他の可能性を不当排除する)。
- ③そんな自信があった小林さんは、これもフィル・コリンズからのテレパシーにちがいないと決めつける(勝手にひとつに決めつける/現実を自分に都合良く解釈する)。
だけど、ここでは、いま見たのとは別の解し方をしてみることにしますよ。
2021年10月17日に文章を一部修正しました。
*今回の最初の記事(1/7)はこちら。
*前回の短編(短編NO.27)はこちら。
*このシリーズ(全43短編を予定)の記事一覧はこちら。