(新)Nothing happens to me.

科学の欠点、限界、見落としている大事なもの

統合失調症の「メッセージを受けとる」「世界は僕のためにある」「テレパシーで交信した」を理解するvol.8(統合失調症理解#14)(1/7)

*短編集「統合失調症と精神医学と差別」から短編NO.28

あらすじ

 小林和彦さんの『ボクには世界がこう見えていた』(新潮文庫、2011年)という本をとり挙げさせてもらって、今回で8回目です(全9回)。

 小林さんが統合失調症を「突然発症した」とされる日の模様からはじめ、現在はその翌日を見ているところです。

 統合失調症と診断され、「理解不可能」と決めつけられてきたその小林さんが、(精神)医学のそうした見立てに反し、ほんとうは「理解可能」であることを、実地にひとつひとつ確認しています。

  • vol.1(下準備:メッセージを受けとる)
  • vol.2(朝刊からメッセージを受けとる)
  • vol.3駅名標示から意味、暗号を受けとる)
  • vol.4(学生3人組と会話する)
  • vol.5(謎がついに解ける)
  • vol.6(逃げる)
  • vol.7(帰宅する)

 

今回の目次
・ミックとテレパシーで会話する
・テレパシーでの交信の仕方
とんねるず木梨憲武とテレパシーで交信する
・同時に自分の閃きを疑う
フィル・コリンズも交信に加わってくる


◆ミックとテレパシーで会話する

 統合失調症を「突然発症した」とされる日の翌日、7月25日(金)、助言を求めて訪れた母校、早稲田大学からなんとか帰宅した小林さんが、午前3時頃に目を覚ましたところまでを見ましたよね。


 今回はそのつづきから、です。

 また寝ようとしたが、すっかり頭が冴えてしまって、夜の気に影響されてか、僕はまた様々なことを考え始めた。詳しいことは覚えていないが、僕の考えを皆に伝える最もいい方法を模索していたようだ。


 突然テレパシーのようなもので誰かと交信がつながった。昼間も聞こえたミック〔引用者注:小林さんの友人〕の声のようなものだった。声は耳からではなく、頭の中に直接入ってきた。これがテレパシーというものかと思い、幻聴だとは全く思わなかった。後にミックはこの日は午前四時ごろまで起きていたが僕とテレパシーで会話した覚えはないと言った僕はそれならミックの守護霊と会話していたんだろうと解釈し、幻聴を認めなかった(小林和彦『ボクには世界がこう見えていた』新潮文庫、2011年、p.127、ただしゴシック化は引用者による)。

ボクには世界がこう見えていた―統合失調症闘病記 (新潮文庫)

ボクには世界がこう見えていた―統合失調症闘病記 (新潮文庫)

  • 作者:小林 和彦
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2011/10/28
  • メディア: 文庫
 


 これまで、ミックという名のこの友人は度々出てきましたね。ミックは小林さんにとって、真っ先に思い浮かぶ「味方」なのかもしれませんね。そのミックとテレパシーで交信したといま小林さんは言っていました。でも、後日ミック本人に訊いてみるとそんな交信をした覚えはないと否定した


 小林さんは誤って、そうした交信をしたものと思い込んでいただけですね。だけど、自分がそんな思い違いをするなんて、小林さんにはまったく考えもつかないことだったのではないでしょうか。


 いや、いっそ、そのことを、裏返しにして、語弊があるかもしれませんけど、こう言い換えてみましょうか。そのとき小林さんには、ミックとたしかにテレパシーで交信したはずだという「自信」があったのではないか、って。


 ミックは、小林さんと交信した覚えはないと言っている(現実)。だが、小林さんには、たしかにミックと交信したはずだという「自信」がある。このように「現実自信とが背反するに至ったとき、ひとにとることのできる手は、やはり、つぎのふたつのうちのいずれかであるように、俺には思われます。

  • A.「現実」に合うよう、「自信」のほうを訂正する。
  • B.「自信」に合うよう、「現実」のほうを修正する。


 では、もしその場面で小林さんが前者Aの「現実に合うよう、自信のほうを訂正する」手をとっていたらどうなっていたか、ちょっと想像してみましょうか。


 もしとっていたら、小林さんは、こんなふうに「自信」を改めることになっていたのではないかと、みなさん思いません?


 ミックとテレパシーで交信したというのはボクの思い違いだったようだな、って。


 でも、小林さんがその場面でも実際にとったのは後者Bの「自信に合うよう、現実を修正する」手だった。すなわち、小林さんは、ミックとたしかにテレパシーで交信したはずだとするその自信に合うよう、現実をこう解した。


「それならミックの守護霊とテレパシーで会話していたんだろう」


 箇条書きにしてまとめてみますよ。

  • ①ミックは小林さんとテレパシーで交信した覚えはないと言っている(現実)。
  • ②たしかにミックとテレパシーで交信したはずだという自信がある(現実と背反している自信)。
  • ③その自信に合うよう、現実をこう解釈する。「それならミックの守護霊とテレパシーで会話していたんだろう」(現実を自分に都合良く解釈する


 が、それにしてもなぜ小林さんは、テレパシーで交信していると思ったのでしょうね? ミックとの交信については詳しいことは何も記されていませんでしたけど、引用文のつづきにはこう書いてありますよ。


         (1/7) (→2/7へ進む

 

 

2020年9月29日に表現を一部変更しました。


前回の短編(短編NO.27)はこちら。


このシリーズ(全43短編を予定)の記事一覧はこちら。