(新)Nothing happens to me.

科学には人間を理解することが絶対にできない理由がある

統合失調症の「テレビで自民党大物政治家が僕のことで喜ぶ」「アナウンサーがニュースで僕のことを仄めかす」「夜中の誰かが階段を駆け降りていった音は、睡眠中に僕の脳波をはかっていた者の慌てて逃げていく足音だった」を理解する(6/6)【統合失調症理解#14-vol.7】

*短編集「統合失調症と精神医学と差別」から短編NO.27


◆正体を確かめに行ってはいけない

 さらに小林さんは続けて、こうも言っていましたね。その足音について、「起きてドアを開けて一階に行けば確かめられるが、なぜかそれをしてはいけないという自制心が働き、僕はベッドから出なかった」って。


 足音の正体を確かためたい気持ちはあったものの、恐ろしくて見に行けなかったのかもしれもせんね。


 だけど、小林さんからすると、その場面で自分が、怖じ気づいたりするはずはなかった。いや、いっそ、小林さんのその見立ても、少々語弊があるかもしれませんけど、こう言い換えてみることにしましょうか。そのとき小林さんには、自分が怖じ気づいているはずはないという自信があったんだ、って。


 で、そんな自信があった小林さんには、足音の正体を確かめに行ってはいけないという自制心がなぜ働いたのかはわからなかった、ということなのかもしれませんね。


 いまこう推測しましたよ。


 小林さんには、足音の正体を確かめたい気持ちはあったものの、恐ろしくて、確かめに行けなかった(現実)。ところがその小林さんには、自分が怖じ気づいているはずはないという「自信」があった。で、「現実と背反したそうした自信があった小林さんには、「現実がうまく理解できなかった。足音の正体を確かめに行ってはいけないという自制心がなぜ働いたのかはわからなかった、って。


 いまの推測を箇条書きにしてまとめてみますね。

  • ①足音の正体を確かためたい気持ちはあったものの、恐ろしくて、確かめに行くことができない(現実)。
  • ②自分が怖じ気づいているはずはないという自信がある(現実と背反している自信)。
  • ③足音の正体を確かめに行ってはいけないという自制心がなぜ働いたのかわからない(現実を自分に都合良く解釈する)。


 さて、今回は、帰宅してからの小林さんについて計3つ、自民党宮沢氏の喜び、テレビキャスターの発言、廊下の足音、を見ました。その3つから、政府に日中つけ回されたと思い込んでいた小林さんが、帰宅後もまだかなり怯えているらしいことが見てとれたような気がしませんか(政府に追い回されたということなら、誰だってそんなふうに長らく動揺しますよね?)。


 そしてこの後もおなじような影響が、ベッドのなかの小林さんのもとに出てきます。この調子で、つづきをあと2回、見ていきますよ。





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2020年9月22日、2021年10月5,7日に文章を一部修正しました。


次回は9月28日(月)21:00頃にお目にかかります。


*今回の最初の記事(1/6)はこちら。


*このシリーズは全9回でお送りします(今回はvol.7)。

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