(新)Nothing happens to me.

科学には人間を理解することが絶対にできないというのは本当?

統合失調症の「メッセージを受けとる」「世界は僕のためにある」「テレパシーで交信した」を理解するvol.7(統合失調症理解#14)(4/6)

*短編集「統合失調症と精神医学と差別」から短編NO.27


◆誰かがあわててドア向こうの階段を駆け降りていく

 さらに先に進みますね。このあと、小林さんはお風呂に入り、テレビを見ます。そのときのことを小林さんはこう書いていますよ。


「翌日は六時起きなので早めにベッドに入った。もう不安感は全くなく、ぐっすり眠れると思っていた。ところがこのベッドの中で、昼間に勝るとも劣らない異常な体験をする破目になるのである」(小林和彦『ボクには世界がこう見えていた』新潮文庫、2011年、p.125)。


 そのように小林さんには、「ぐっすり眠れるはずだという「自信」があった。でも、早稲田大学で日中に起こったことを先に詳しく見ましたよね。時の内閣に監視され、果ては殺されるかもしれないと逃げ惑っていましたね? そして帰宅後も、小林さんはまだかなり動転しているようにいま見受けられませんでしたか。その直後に、小林さんが「ぐっすり眠れる」とはなかなか考えにくいことではありません? 実際、小林さんはこのあと、「ぐっすり眠れ」はしないわけですよ(現実)。ここでも小林さんの「自信」と「現実」はそうして背反します。


 その顛末を見ていきましょう。

 さすがに今日一日の体験で疲れたか、最近になく早く眠りについた。どんな夢を見たかも夢を見たかどうも覚えていない。


 突然午前三時頃、目が覚めた。これ以降、朝になって妹が起こしに来るまで、僕は全く眠っておらず、その間にあったことは断じて夢ではなく、現実に起こったことだ。人は「夢でも見ていたんだろう」と言うが、それだけは否定する。


 目が覚めたとたん誰かがあわててドアの向こうの階段を駆け降りていく音がした僕はこの家の中に妹以外の人間がいて彼は眠っている間の僕の脳波をどういう方法でかは知らないが調べていたのだろうと思ったそして僕が目覚めてしまったため、正体がばれることを恐れ、あわてて撤収したのだろう。起きてドアを開けて一階に行けば確かめられるが、なぜかそれをしてはいけないという自制心が働き、僕はベッドから出なかった。別に金縛り状態ではなかったと思う(同書p.126、ただしゴシック化は引用者による)。

ボクには世界がこう見えていた―統合失調症闘病記 (新潮文庫)

ボクには世界がこう見えていた―統合失調症闘病記 (新潮文庫)

  • 作者:小林 和彦
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2011/10/28
  • メディア: 文庫
 


 午前3時頃に目が覚めたとき、「誰かがあわててドアの向こうの階段を駆け降りていく音がした」とのことでしたね。それを聞いた小林さんは、「この家の中に妹以外の人間がいて、彼は眠っている間の僕の脳波を、どういう方法でかは知らないが調べていたのだろうと思った。そして、僕が目覚めてしまったため、正体がばれることを恐れ、あわてて撤収したのだろう」と推測したとのことでしたね。


 ここでも、さっきのふたつの場合とおなじことが起こっている気が、みなさん、しませんか。


 殺し屋に追われているひとが、ちょっとした物音にもビクッと反応し、「殺し屋が来た!」と身構えるように、政府に日中つけ回されたと思い込んでビクビクしていた小林さんは、深夜、そんな足音を聞いてギョッとしとっさにつけ回してきている奴らだと閃いたのかもしれませんね。


 で、遠ざかって行く足音を聞きながら、眠っているボクのところで何をしていたのだろうと頭をひねり、あ、そうだ、「彼は眠っている間の僕の脳波を、どういう方法でかは知らないが調べていた」のではないかと瞬時に思いついたのかもしれませんね。


 そりゃあ、政府に追われているということなら、ふとそんな発想が湧いてきても何ら不思議はありませんね?


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