(新)Nothing happens to me.

科学の欠点、限界、見落としている大事なもの

統合失調症の「メッセージを受けとる」「世界は僕のためにある」「テレパシーで交信した」を理解するvol.4(統合失調症理解#14)(2/5)

*短編集「統合失調症と精神医学と差別」から短編NO.24


◆大学生3人組と会話する

 立てつづけに可愛い女性に出会ったことや、やけに車が接近してきたことに「不自然さ」を覚えつつ、光が丘公園にやって来た小林さんは、そこで用を済ませたあと、その日の最終目的地、早稲田大学へ向かいます。


 そして早稲田大学に着くと、最初に生協に行き、そこを出てしばらくブラブラしてから、

ジュース片手に学生会館に行き、「卓球同好会」という看板がぶら下がっている所に三人の男女(男二人、女一人)がたむろっているのを見つけ、話しかけた。プラスパズル〔引用者注:おもちゃの名前〕を見せると、男の一人が「見たことがある」と言った。僕は「商学部のOBです」と言って亜細亜堂〔引用者注:小林さんが当時勤めていたアニメーション会社の名前〕の名刺を三人に渡した。「好きなアニメは?」と聞くと一人が「『巨人の星とかと答えた。男は二人とも男前で、女の子はこれまた僕好みの大変可愛らしい顔をしており、三人とも真面目そうで好感が持てた僕はなぜか、女の子はわからなかったが、男二人は田中角栄竹下登の分身ではないかと思ってしまった男が巨人の星と言った時に誰かが笑う声がしたのだ。最初の幻聴だったのかもしれない。もう一人の男が「自分も商学部だ」と言うので、僕は彼に、


「産業社会学マーケティング論、広告論をとりなさい」


 とかアドバイスした。他にも何か喋ったが、その間女の子は僕の方を見て目にいっぱい涙をためていた僕はそれを見て世の中にこんな可愛い女性がいるのかと息を呑んだ


 学生会館を出て、「早ア」のたまり場であった一四号館ラウンジへ行く(小林和彦『ボクには世界がこう見えていた』新潮文庫、2011年、pp.108-109、ただしゴシック化は引用者による)。

ボクには世界がこう見えていた―統合失調症闘病記 (新潮文庫)

ボクには世界がこう見えていた―統合失調症闘病記 (新潮文庫)

  • 作者:小林 和彦
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2011/10/28
  • メディア: 文庫
 


 その若い女性はびっくりして目に涙をためていたのかもしれませんね(「目にいっぱい涙をためていた」という描写が、その女性の潤みがちな瞳を美化するための誇張表現にすぎないのなら話は別ですけど)。いっぽう、男性ふたりはどうでした? 「好きなアニメは何か」と小林さんが質問したのにたいし、そのうちのひとりが「『巨人の星』とか」と答えたとのことでしたよね。そのとき、「誰かが笑う声がした」と小林さんは言っていましたね。


 それは誰の笑い声だったのでしょうね?


 たしかなことはわかりませんけど、ひょっとするとそれは、小林さんが胸のうちで立てた笑い声だったのかもしれませんね。


 男子学生が「『巨人の星とかと答えたのを聞き、小林さんは内心、「ださっと思って失笑したのかもしれませんね(もちろん、そうではないかもしれませんよ。これはあくまで俺の単なる憶測にすぎません。でも、俺なら、おそらく失笑していたでしょうね。みなさんのなかにも、大学生が「巨人の星」だなんてと思うひと、いるのではありませんか?)。


 だけど、「『巨人の星』とか」と答えた男子学生もまた真面目そうで、小林さんには好感がもてた。好感のもてるその男子大学生のことを自分がそこで笑うなんて、小林さんにはまったく思いも寄らないことだったのかもしれませんね。つまり、小林さんの「予想」からすると、好感のもてるその男子大学生のことをそこで自分が笑ったはずはなかったのかもしれませんね。


 いや、いっそ、そのことを、すこし語弊があるかもしれませんけど、こう言い直してみましょうか。小林さんには、自信があったんだ、って。好感のもてるその男子大学生のことを自分が笑ったはずはないという自信が、って。


 で、その自信に合うよう、小林さんは、現実をこう解した。


 他のひとが笑ったんだ、って。


 しかし学生3人組は笑い声を立ててはいない。そこで小林さんはとっさにこう思いついたのかもしれませんね。


 その学生3人組のうち「男二人は田中角栄竹下登の分身ではないか」。笑い声は、その本体のほうが立てたものなのではないか、って。


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