*短編集「統合失調症と精神医学と差別」から短編NO.23
あらすじ
小林和彦さんの『ボクには世界がこう見えていた』(新潮文庫、2011年)という本をとり挙げさせてもらって、今回で3回目です(全9回)。小林さんが統合失調症を「突然発症した」とされる日とその翌日の模様を、前回から見はじめたところです。
統合失調症と診断され、「理解不可能」と決めつけられてきたその小林さんが、(精神)医学のそうした見立てに反し、ほんとうは「理解可能」であることを、実地にひとつひとつ確認しています。
◆ここまでの簡単な流れ
ここまで、こういうことでしたよね。簡単にざっと振り返っておきますよ。
統合失調症を「突然発症した」とされる日の数ヶ月前から小林さんはしきりに「メッセージを受けとる」ようになっていた。つまり、「現実を自分に都合良く解釈する」ようになっていた。
そんななか、小林さんが統合失調症を「突然発症した」とされる日、7月24日(木)が訪れた。小林さんはその日、同僚が会社にもってきた新聞を読み、そこにあった記事をつい早合点して、自分に都合良くこう解釈したのではないかということでしたね。
国が、アニメーションによる体制変革を志しているボクのことを、妨害者たちの手から守ろうとついに動き出したんだ、って。
小林さんいわく、「客観的に見て、これが僕の妄想が病的な誇大妄想になった最初の時点と言えるだろう」(小林和彦『ボクには世界がこう見えていた』新潮文庫、2011年、p.87)とのことでした。
そして、
特に、竹下登幹事長、橋本龍太郎運輸相、宮沢喜一蔵相などは、我々に会いに来い、と僕に呼びかけているように感じた。(略)自民党の幹部に今すぐ会いに行きたい。会って、僕が思っていることをすべて彼らにぶちまけたい。いや、その前に早稲田の教授に会いに行って、彼らの助言を乞おう〔引用者注:小林さんは早稲田大学卒〕。僕は居ても立ってもいられなくなった(前掲書pp.87-88、ゴシック化は引用者による)。
とのことでしたね。
その言のとおり、小林さんは、翌25日(金)、早稲田大学に向かいます。
とりあえず明日の二十五日、早稲田大学へ行くことにした。僕にとっての最大のシンクタンク、早稲田に行って、産業社会学、広告論、政治学の教授に会うのだ。僕は早稲田大学というのは「世界に対してアンチテーゼをなげかれられる大学」と考えていた。「今の世界で本当に満足しているのか」という体制変革を呼びかけるアニメを作るのなら、早稲田の協力が是非とも必要だった。(同書pp.99-100)
では、いまから、その小林さんを追っていきますよ。25日(金)、他の用もあった小林さんはまず光が丘公園に向かいます。
2021年9月24日に文章を一部修正しました。
*このシリーズは全9回でお送りします(今回はvol.3)。
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*前回の短編(短編NO.22)はこちら。
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