*短編集「統合失調症と精神医学と差別」から短編NO.22
◆ふり返り
いまこう推測しました。いつもながら、くどいでしょうけど、ふり返ってみますね。
アニメーションによる体制変革を志していた小林さんはつねづね権力者の庇護を求めていたということでしたね。そんなところで、小林さんは、7月24日(木)の朝、Gさんが会社にもってきた新聞を読み、そこに載っていた中曽根首相の言葉に気持ちを高ぶらせた。で、時の内閣が「懸案となっている『国家機密法』の国会再提出に熱意を持っている」と書いてある記事に突き当たり、早合点して、それを自分に都合良く、こう解した。
あ、国がついに、ボクを妨害者たちの手から守ろうと動き出した、って。
そのように現実を自分に都合良く解釈しているとき、同時に、その解釈の信憑性が内心しばしば疑われているものだということでした。だけど、そのときの小林さんはそうではなかった。そのとき小林さんには、自分が間違った解釈をしているはずはないという自信があった。で、そんな自信があった小林さんには、ほんとうに国が小林さんのことを守ろうと動き出したのだと頭から信じ切ることができたということなのではないか、とのことでしたね。
いまふり返ったところを箇条書きでまとめてみるとこうなります。
- ①権力者の庇護をつねづね求めていたところで、新聞記事を読み、それを自分に都合良く、「国がついにボクを妨害者の手から守ろうと動き出した」と早合点する。(現実を自分に都合良く解釈する)。
- ②自分が間違った解釈をしているはずはないという自信がある(その他の解釈の可能性を不当排除する)
- ③そんな自信がある小林さんには、ほんとうに、国が小林さんのことを守ろうと動き出したのだと頭から信じ切ることができる(間違った解釈を全力で信じ込む)。
では、ここで、そのように本気で信じ切れたら、次はどうなるか、最後にひとつ想像してみましょうか。
みなさん、どうなると思います?
先の引用文に書いてあったように、与党大物政治家、「特に、竹下登幹事長、橋本龍太郎運輸相、宮沢喜一蔵相など」が「我々に会いに来い、と僕に呼びかけているように感じ」られるようになったのだとしても何らおかしくはないということになりませんか。
「自民党の幹部に今すぐ会いに行きたい。会って、僕が思っていることをすべて彼らにぶちまけたい」と小林さんの気がはやったのも自然な成り行きだったということになりませんか。
以上、今回は、小林さんが統合失調症の症状をはじめて呈したとされるときの様子を見せてもらいました。みなさん、どうでした? そのときの小林さんは、(精神)医学が言うだろうように、ほんとうに「理解不可能」だと思いましたか?
いや、「理解不可能」などということはありませんでしたよね?
当時まだ駆け出し中だった小林さんは単に早合点して、「現実を自分に都合良く解釈した」にすぎませんね? ただ自分のその解釈を小林さんはすこしばかり力強く信じすぎたというのはあるでしょうけど、でも、現実を自分に都合良く解釈するなんてこと、ふだん誰にでも、よくありますね? 俺はありますよ。現実をとんでもないほど自分に都合良く解釈してしまうことなんか、しょっちゅうですよ。みなさんも、友人知人、家族、あるいは自分自身にたいし、「よくもあれだけ、現実を自分に都合良く解釈できたものだなあ」としみじみと感じ入ったこと、あるのではありませんか。
とはいえ、いま小林さんのことを完璧に理解できたと言うつもりは、俺にはサラサラありません。むしろ、事態はその逆ですよ。小林さんのことを多々誤ったふうに決めつけてしまったのではないかとしきりに気が咎めているというのが、ウソ偽りの無いところです。
けど、いま見たところの小林さんがほんとうは「理解可能」であるということは、さすがにいまの考察からでも十分、明らかになったのではないでしょうか。
みなさんのように、申し分のない人間理解力をもったひとたちになら、いま見たところの小林さんが完璧に理解できるということは、十分ハッキリしたのではないでしょうか。
この要領で、(精神)医学に「理解不可能」と決めつけられてきた小林さんが、ほんとうは「理解可能」であることを、どんどん確認していきます。
次回は翌週8月24日(月)21:00頃にお目にかかります。
2021年9月23日に文章を一部修正しました。
*今回の最初の記事(1/4)はこちら。
*このシリーズは全9回でお送りします(今回はvol.2)。
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