(新)Nothing happens to me.

科学の欠点、限界、見落としている大事なもの

統合失調症の「赤の他人の怒ったような顔写真を見て、自分の父親は怒っているととる」を理解する(統合失調症理解#9)(3/4)

*短編集「統合失調症と精神医学と差別」から短編NO.17


 いまの推測を箇条書きにしてまとめると、こうなります。

  • ①自分の父親に似ている経団連会長の、怒ったような顔写真を新聞紙上に見たのをキッカケに、急に自分の父親の機嫌が気になり出し、「バカ野郎!」「この野郎!」などと言って怒っていたらどうしようと心配になる(現実)。
  • ②自分が父親の機嫌を気にしているはずはないといった自信がある(現実と背反している自信)。
  • ③その自信に合うよう、現実をこう解釈する。「父親の『バカ野郎!』『この野郎!』といった怒鳴り声が急に、僕の耳に入ってくるようになった。さては父親は怒っているな」(現実修正解釈


 さらにEさんはこうも言っていたとのことでしたよね。


テレビの時代劇に父親に似た俳優が出てよい役で活躍していた最近父親の機嫌がいいのはそのせいだと思う」。


 ある日、Eさんはふと思い至ったのかもしれませんね。そういえば最近、お父さんの「バカ野郎!」「この野郎!」という怒鳴り声、聞こえてきていないな。お父さん、機嫌がいいな、って。そこでEさんはその理由を考えた。で、Eさんの父親に似た某俳優が、テレビの時代劇に良い役柄で出ているのをつい先日見たことを、思い出した。


 その俳優が良い役柄でテレビに出ているのを見たそのときEさんは、その俳優の活躍に触発され、自分の父親の機嫌の良い様子をまざまざと連想することはあっても父親がバカ野郎!」「この野郎!」などと言って怒っているような姿は喚起されることがなかったのかもしれませんね。そして以後父親の機嫌をビクビクと気にしたりすることなく日々を過ごせたのかもしれませんね。ただ、そのことを、ついさっき見たような現実解釈をするEさんは、「父親の怒鳴り声が最近は聞こえてきていない」(父親の機嫌がいい)ということと受けとった。で、事の「キッカケ」に着目し、こう説明したのかもしれませんね。


 テレビの時代劇に、父親に似た俳優が出て、よい役で活躍していた。そのせいで、最近父親の機嫌がいい、って。


 以上、統合失調症と診断され、「理解不可能」と決めつけられてきたEさんを今回は見てきました。みなさん、どうでした? Eさんはほんとうに「理解不可能」だと思いました?


 むしろ、「理解可能」だと確信したのではありませんか。


 いや、もちろん、Eさんのことをいま完璧に理解し得たと言うつもりは、俺にはサラサラありませんよ。正直な話、Eさんのことを、多々誤ったふうに決めつけてしまったのではないかとしきりに気が咎め、いま肩をガックリと落としているくらいですよ。


 だけど、そうは言ってもさすがに、Eさんがほんとうは理解可能であるということは、いまの考察からでも、十分明らかになりましたよね? みなさんのように、申し分のない人間理解力をもったひとたちになら、Eさんのことが完璧に理解できるにちがいないということは、いま十分に示せましたね?


(精神)医学にはEさんのことを理解することがずっと、できてきませんでした。けどそれは単に、Eさんのことを理解するだけの力が(精神)医学にはなかったということにすぎないと、いまやハッキリしましたね?


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