(新)Nothing happens to me.

科学の欠点、限界、見落としている大事なもの

統合失調症の「声が命令してくる(幻聴)」を理解する(統合失調症理解#5,6)(3/3)

*短編集「統合失調症と精神医学と差別」から短編NO.12


 引きつづき、幻聴を訴えるとされるひとに、もうひとり登場してもらいますよ。

 ある若者は、よく奴隷になれという声が聞こえてくると訴えた。若者は気弱な性格で、自分のしたいことがあっても、抑えてしまうところがあった。本当は、進みたい分野があったのだが、周囲の勧めに従ってそれは諦め、別の分野に進んだのだ。若者の気持ちの奥底には、自分は他人の意思に隷属させられているという思いがあったと考えられる(岡田尊司統合失調症PHP新書、2010年、pp.94-95、ただしゴシック化は引用者による)。

統合失調症 その新たなる真実 (PHP新書)

統合失調症 その新たなる真実 (PHP新書)

 


 若者には、自分のしたいことが他にあっても、まわりのひとたちの言いなりになろうとするところがあった現実)のかもしれませんね。でも、若者には自信があったのではないでしょうか。自分がまわりのひとたちの言いなりになろうとしているはずはないといった自信が。そのように「現実自信とが背反するに至ったとき、ひとにとることのできる手はやはり、つぎのふたつのうちのいずれかではないかと俺には思われます。

  1. 現実に合うよう、自信のほうを修正する。
  2. 自信に合うよう現実のほうを修正する


 で、若者は後者の「自信に合うよう、現実のほうを修正する」手をとった。自分がまわりのひとたちの言いなりに「なろう」としているはずはないといったその自信に合うよう、現実をこう解した。


「声」が、言いなりになれ(奴隷になれ)と言ってくる、って。


 そうして若者は、ひとの言いなりになろうとする自分の意思を、ひとの言いなりになれと命じてくる何者かのととったのかもしれませんね。


 いまの推測を箇条書きにしてまとめると、こうなりますよ。

  • ①ひとの言いなりに「なろう」とする(現実
  • ②自分がひとの言いなりに「なろう」としているはずはないといった自信がある(現実と背反している自信
  • ③その自信に合うよう、現実をこう解釈する。「声が、言いなりになれと言ってくる」(現実修正解釈


 さあ、ここまで、「幻聴」なるものを訴えるとされるふたりのひとを見てきましたね。どうでした? みなさん、そのひとたちのことを、ほんとうに「理解不可能」だと思いました?


 いや、むしろ、「理解可能」だと確信したのではありませんか。


 もちろん、トランペッターBさんとこの若者のことをいま完璧に理解することができたなどとは俺自身、まったく思いはしませんよ。正直な話、多々誤ったふうに決めつけてしまったのではないかと気が咎めているくらいですよ。


 だけど、そうは言ってもさすがに、そのふたりがほんとうは理解可能であるということは、いまの考察からでも、十分明らかになりましたよね? みなさんのように申し分のない人間理解力をもったひとたちにならそのふたりのことが完璧に理解できるということはいま十分、示せましたね?


 今回は、「声に命じられて投身自殺を図った」と言うトランペッターBさんと、「奴隷になれという声が聞こえてくる」と訴える若者に登場してもらい、(精神)医学に統合失調症と診断され、「理解不可能」と決めつけられてきたそのふたりがほんとうは「理解可能」であることを実地に確認しました。


次回は2週間後、5月4日(月)21:00頃にお目にかかります。Stay home! Stay safe!


2020年4月23日に、内容はそのままに、一部言葉を付け加えました。また2020年5月23日に文章を一部修正しました。


ひとつまえの記事(2/3)はこちら。


今回の最初の記事(1/3)はこちら。


前回の短編(短編NO.11)はこちら。


このシリーズ(全26短編を予定)の記事一覧はこちら。