*短編集『統合失調症と精神医学の差別』の短編NO.11
◆盗聴されている(ⅰ)
男性は「自分の部屋に帰っても落ち着かず、『盗聴されている』と、電話を分解したりした」と書いてありました。それはいったいどういうことだとみなさん思いました?
たしかに、そんな短い記載からだけでは何とも想像のしようがありませんね?
ただ、「盗聴されている」というその訴えから、こういう推測はできるような気がしませんか。盗聴されていると考えるのでなければ説明のつかないことが男性にはあったのではないか、って。
そう考えると、こういう想像も可能になってきません? あるとき、上司が男性に「おまえ、俺の悪口を陰で言ってるだろ。全部わかってるんだぞ!」といったようなことを言ったのかもしれない、って。
上司は当てずっぽうでそう言った。それまで男性にさんざ酷いことを言ったり、したりしてきた経緯から、男性に陰口をたたかれているにちがいないと上司が考えていたのだとしても、何ら不思議はありませんね?
だけど、男性はそうは受けとらなかった。上司の「おまえ、俺の悪口を陰で言ってるだろ。全部わかってるんだぞ!」という脅しを素直にとった。つまり、男性が家で上司の悪口を言ったのがほんとうに上司の耳に入ったのだととった(男性は上司の悪口を家の外で言ったことがなかった)。
もしそうなら、男性はこう考えたでしょうね。「盗聴されている」って。
2021年8月17,18,19日に文章を一部修正しました。
*今回の最初の記事(1/8)はこちら。
*前回の短編(短編NO.10)はこちら。
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