(新)Nothing happens to me.

科学には人間を理解することが絶対にできない理由がある

統合失調症の「わたしはエスパーだ」「頭のなかを監視されている」を理解する(3/10)【統合失調症理解#3】

*短編集『統合失調症と精神医学の差別』の短編NO.10


◆場面2‐Ⅰ(ひとに言い当てられた)

 すると

 そんなある日、朝礼で、突然、私の考えていることが相手に伝わり、言い当てられるという出来事が起こりました。とにかく驚きでいっぱいでした。


 その後、私の考えていることがみんなに言い当たられるようになり「Aさんはエスパーだ」と言われるようになりました。三〇〇人の従業員全員に私の自分の考えが一挙に伝わり、エスパーだという噂が広がっていきました。


 この場面については特にいろんな想像ができるかと思いますが、俺はひとまずつぎの3種類の想像をしました。

  • Ⅰ.Aさんの考えがひとに言い当てられたというのが事実である場合
  • Ⅱ.Aさんが、自分の考えをひとに言い当てられたと「思い込んでいる」だけの場合
  • Ⅲ.その他


 いまからこれらを順にひとつずつ見ていきますね。ちなみにこの3つのなかで俺が一番真相に近いといまのところ睨んでいるのはⅢであると、先に言っておきますよ。


 では、Ⅰを見てみます。表情や、仕草、振る舞い、そのときの状況などから、他人の考えていることがわかることって、ときどきありますよね。実際みなさんも、表情や仕草やそのときの状況などから、他人の考えを見抜いたことや、逆に考えを見抜かれたことがあるのではありませんか。


 Aさんが朝礼で自分の考えを突然ひとに言い当てられたこのときも、ひょっとするとAさんの表情や仕草にAさんの考えが出ていた現実)のかもしれませんね。たとえば、誰かが退屈なスピーチをしていたときに、誰もがついしてしまうようにAさんも、一瞬つまらなさそうな表情をかいま見せてしまったのかもしれませんね。で、そのあと、「ボクのスピーチ、つまらなかった?」と訊かれたとか。


 あるいは、そのときの状況からしてAさんの考えを言い当てるのは至極簡単だった現実)という可能性も考えられはしませんか。退屈なスピーチが延々とつづいていて、Aさんのみならず、明らかにその場にいる誰もが早く終わってほしいと考えているだろうことが推測できたとか。「え〜、では、早くスピーチを終わってほしいと思っているひとがいるようなので、この辺りで朝のスピーチを終えることにします」


 でも、Aさんからすると、そうしたところで自分が、表情、仕草、振る舞い、に自分の考えを出してしまったりするはずはなかった。もしくは、その場の状況からAさんの考えが容易に推測できたりするはずはなかった。


 いや、いっそ、そのAさんの見立ても、簡単にこう言い換えてみることにしましょうか。そのときAさんには、ひとがわたしの考えを見抜くことは不可能であるはずだという自信があったんだ、って。


 で、そんな自信があったAさんには自分の考えをひとに言い当てられたそのことが不思議に思われてならなかった


 そして以後も、自分の考えを言い当てられるということが何度かつづいたが、とうとうあるとき、以前からずっと首を傾げていたAさんはハッと思いついた。


  
あ、そうか、わかったぞ、自分にはテレパシーがあるんだ。なるほど、それで、見抜かれるはずのない自分の考えが、他人にモレ伝わってしまうのか!


 いまこう推測しました。先ほどのように箇条書きにしてまとめてみますね

  • ①Aさんの表情や仕草に、Aさんの考えが出ていた。もしくはそのときの状況からAさんの考えを言い当てることは容易だった(現実)。
  • ②しかしAさんには、ひとがわたしの考えを見抜くことは不可能であるはずだという自信があった(現実と背反している自信)。
  • ③で、その自信に合うよう、現実をこう解した。「自分にはテレパシーがあって、それで、見抜かれるはずのない自分の考えが、他人にモレ伝わってしまうんだ」(現実修正解釈


 と同時にAさんは、自分がエスパーであるそのこともまた従業員たちに見抜かれ噂されているのではないかと気にするようになった現実)のかもしれませんね。ところが、Aさんからすると、そこで自分が、従業員たちにどう思われているかを気にしたりするはずはなかった。すなわち、そのときAさんには「ひとにどう思われているかを気にしているはずはない」という自信があった(この自信については先ほど説明しました)。で、その自信に合うよう、Aさんは現実をこう解した。


 従業員たちが「Aさんはエスパーだ」と噂しているのが聞こえてくる、って。


 それも箇条書きにするとこうなります。

  • エスパーだと従業員たちに噂されているのではないかと気になる(現実
  • ②「ひとにどう思われているかを気にしているはずはない」という自信がある(現実と背反している自信
  • ③その自信に合うよう、現実をこう解釈する。「従業員たちが『Aさんはエスパーだ』と噂しているのが聞こえてくる」(現実修正解釈





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2020年4月18日に、内容はそのままに文字を一部追加しました。また2021年8月9,10,11,12,18日に文章を一部修正しました。


*今回の最初の記事(1/10)はこちら。


*前回の短編(短編NO.9)はこちら。


*このシリーズ(全64短編)の記事一覧はこちら。