*医学は喩えると、空気の読めないガサツなおじさん第2回
目次
・大木は俺の身体に気を配る
・大木は「他のもの」に気を配る
・「他のもの」のなかに入る過去体験記憶像・未来体験記憶像
◆大木は俺の身体に気を配る
俺、いま大木に歩みよっているじゃないですか。大木は、俺のほうを向いた面の、上ッ面のみ「見えるありよう」を、それ以外の部分はすべて「見えないありよう」をそれぞれとった姿をしているってことでしたよね。
俺が歩みよるにつれ、大木はその姿を刻一刻と大きく、かつ、くっきりさせていくってことでしたね。
歩みよっている最中に俺が瞳を閉じると、さらに大木は姿全部を「見えないありよう」に変え、瞳を再度ぱっちり開ければ、俺のほうを向いた面の上ッ面だけ「見えるありよう」にまた変えるじゃないですか。俺が右っ側から周りこむように近寄っていくと、さっきまで「見えないありよう」を呈していた、大木の向かって右側面を徐々に「見えるありよう」に変えていくと同時に、それまで「見えるありよう」を呈していた面をだんだん左っ側に「見えないありよう」に変えて寄せていくじゃないですか、ね?
まぶしさに弱い俺がサングラスをかければ、大木は姿を薄暗くしますし、俺がサングラスをとれば、再度その姿を明るくしますし、ね?
俺の身体がどこに、どのようにあるかによって、こんなふうに大木は姿を変えますね。大木のこうしたありようを、哲学も科学もその他ありとあらゆる学問も言葉にはしてきませんでしたけど、俺は積極果敢にこう表現しようと思います。
大木は、「俺の身体と共に在るにあたってどのようにあるか」という問いに逐一答えるものなんだ、って。
けど、こんな表現で通用しますかね? それとも箸にも棒にも引っかかりませんかね? 正直、俺にはうまく表現できている気があまりしないと言いますか、なんと言いますか......
みなさんならどう表現します?
あれ......カラスの鳴き声しか聞こえてこないな......
じゃあ、俺のこの表現でいいですかね? 歩みよるにつれ、大木が姿を刻一刻と大きく、かつ、くっきりさせていくというのは、大木が、「俺の身体と共に在るにあたってどのようにあるか」という問いに逐一答えるってことを意味するんだってので? もっと的確な表現がありましたら、適宜、みなさんのほうで差し替えておいてくださいね?
でも、大木は、俺の身体がどこにどのようにあるかによって姿を変えるだけじゃありませんね?
◆大木は「他のもの」に気を配る
今日、雨の予報出てましたっけ、急にあたりが暗くなりましたよ。あ、でもすぐにまた雲間から顔を出しましたね、太陽、ほら。
大木は、太陽が雲間にかくれると薄暗い姿を呈し、太陽が再度雲間から顔を出すと、もとの明るい姿にもどったじゃないですか。太陽と雲がどこに、どのようにあるかによっても大木の姿は変わりますね。大木は、「太陽や雲と共に在るにあたってどのようにあるか」という問いにも逐一答えるって言い足したほうがいいんじゃないですかね?
あ、ちょっと待って、そうだ俺、鍵どこにやったっけ? 急にすみません、突然心配になるタチで……ポッケのなかにないぞ、おかしいな、こっちのポッケにもないな、カバンのなかかな?
ゴソゴソという音がします。
だけどそれは、俺がカバンのなかをあさる音じゃありませんね。前方数百メートルのところにある大木の葉という葉が枝ごと風に揺れる音ですよね。いまカバンのなかを覗いている俺には、大木はまるまる全体が「見えないありよう」をとっていますけど、大木はその「見えないありよう」をした姿を、ゴソゴソという音に合わせて揺すっています。風や音がどのようにあるかによっても大木はこのように姿を変えますよね。
大木は、「風や音と共に在るにあたってどのようにあるか」という問いにも逐一答えるってさらに付け足したら、みなさん、アメリカの人たちみたいに肩をすくめますかね?
あ、鍵ありました。ちゃんとカバンのなかにありましたよ〜。焦ったぁ〜、いきなりすみません、急に変なこと気になっちゃって……
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