(新)Nothing happens to me.

科学には人間を理解することが絶対にできない理由がある

「統合失調症」を理解する3(後半)

*身体をキカイ扱いする者の正体は第17回


 みなさんは「青年の身になって」、引きつづきこうお考えになります。


「いま、入院十日まえから急に周囲の注目を集めるようになったというのが青年の思い過ごしではないと仮定して考えた。今度は、実にそれが青年の思い過ごしであると仮定して話を進めたい。急に入院十日まえくらいから、青年はどこに行ってもひとに見られているように感じ出した。どこに行っても、背後や視野の隅や前方遠くからひとに見られている気がしきりにして落ち着きを失うようになった(怯えるようになった?)。ほんとうはこれといって誰も青年のことを見ていないのに、である。


「だが青年にはゆるぎない自信があった自分がひとに見られていると勝手に感じているだけということはあり得ないという自信が。そして彼はその自信にもとづいて現実を見、『急にどこに行ってもひとから見られるようになった、すなわち周囲の自分を見る目が急に変わった』と解した。


「いっぽうで青年にはこんな自信もあった。自分はひと目をひくような身なりもしていないし、言動もとっていないというゆるぎない自信が。その自信にもとづいて青年はさらに現実をこんなふうに解した。『おかしい、なぜひとは急にどこに行っても僕を見てくるようになったのか。その理由がわからない・・・・・・あ、そうか、ナゾが解けたぞ。どうやら僕には輝かしい才能があるらしい。そうでもなければこうまでひとが僕に注目してくるはずはあるまい』」


 いまみなさんがつづけて「青年の身になってお考え」になったところを箇条書きでまとめますと、こうなります。

  • ① ほんとうはこれといって誰にも見られていないのにひとに見られているとどこに行っても勝手に感じようになるという現実に青年は直面する。
  • ② 青年には、見られてもいないのにひとに見られていると勝手に感じるようなことは僕にはあり得ないというゆるぎない自信がある
  • ③ 青年はその自信にもとづいて、現実を解釈する。「急にみんなの僕を見る目が変わって、どこに行っても僕を見てくるようになったんだ」。
  • ④ さらに青年には、僕はひと目をひくような身なりもしていないし、言動もとっていないというゆるぎない自信もある
  • ⑤ 青年はその自信にもとづいて現実をさらに解釈する。「だとすると、僕には才能があって、それでどこに行ってもひとが見てくるようになったということか」。


 このように「青年の身になって考え」てこられたみなさんはいま、この青年に若き日のご自身を感慨深げに重ね合わせていらっしゃいます。


 現在はご自身独自の道を切り開いて驀進しておられるみなさんですが、お若い頃は、つぎつぎと同僚の方々がみなさんより先に昇進されていくという現実に直面して苦しんでおられました。そんなみなさんには当時、同僚のなかではご自分が先陣を切って昇進していくはずであるというゆるぎない自信がおありでした。そしてその自信にもとづいて現実をこんなふうに解していらっしゃいました。「おかしい、自分がまっ先に昇進していくはずなのに、どうしてそうなっていないのか。あ、そうか、わかったぞ。人事評価が正当になされていないのだな。担当者は誰だ、出てこい!」。

  • ① 同僚がつぎつぎとみなさんをさしおいて昇進していくという現実に直面なさった。
  • ② みなさんには、同僚のなかではご自分が先陣を切って昇進していくはずであるというゆるぎない自信がおありだった
  • ③ その自信にもとづいて現実を解釈なさった。「正当な人事評価がなされていないのだ」。


 さて、ここまでみなさん、「青年の身になって考え」てこられました。どうでしょうか、いまたしかな手応えを感じてこう思い返しておられるのではないでしょうか。青年のことを自分はうまく理解できなかったもしれない。実際のところ、もっと青年に青年自身のことをよく教えてもらう必要があるように感じた。だが、少なくとも精神に異常があるものとして理解しようとする場合よりもこの青年にぐんと近づき得たと確信はできる。この青年を統合失調症、すなわち精神に異常があるものと診断するのをやめ、いわゆる健常者(精神医学に精神を正常であると判定されるひとたち)を理解するときのように理解しようと努めると、青年が一気に自分たちと同じ人間であることがヒシヒシと実感できるようになった、と。


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