*科学にはなぜ身体が機械とおもえるのか第12回
「絵の存在否定」という不適切な操作を為した科学が、「身体の感覚部分」を、俺の心のなかにある、見ることも触れることもできない「ほんとうの身体の物的部分」についての情報であることにし(身体知覚論)、その情報を「ほんとうの身体の物的部分」各所の受容体から、神経、脳を経て俺の心のなかにまで伝達されてきたことにする(情報伝達論)のを見ました。
かつてひとに先駆けて、「身体の感覚部分」をこのように、俺の心のなかにある、見ることも触れることもできない「ほんとうの身体の物的部分」についての情報であると考えた、科学の大先駆者、デカルトは、 心の外に実在する「ほんとうの身体の物的部分」に起こる物質的出来事を、不随意運動(意思にもとづかないもの)と随意運動(意思にもとづくもの)とに分け、後者については心によって引き起こされると説きましたが(デカルト『情念論』第1部18,34)、科学は、心という非物質が、「ほんとうの身体の物的部分」に働きかけるのを認めません。歩くとか走るといった運動をするときも、毛布をかぶってガタガタと震えるときも、どんなときも、「ほんとうの身体の物的部分」で、物質的出来事は、心の関与無しに起こるとし、身体を時計や掃除機と同じ機械と見ます(身体機械論)。そして、「ほんとうの身体の物的部分」が、その瞬間その瞬間、どのようにあるかという情報が、「ほんとうの身体の物的部分」各所の受容体から脳まで伝達され、そこで心のなかの「身体の感覚(部分)」に変換される(情報伝達論)とするわけです。
- 作者: デカルト,Ren´e Descartes,谷川多佳子
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2008/01/16
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科学が事のはじめに、「絵の存在否定」という不適切な操作を為し、こうして「ほんとうの身体の物的部分」で物質的出来事が起こるのに「身体の感覚部分」は関与しないとする(身体は機械であるとする)に至る経緯をここまで、つぎのような順で確認してきました。
- 「絵の存在否定」という不適切な操作
- 俺が体験するものをすべて俺の心のなかにある像とする
- 「身体の感覚部分」を、俺の心のなかにある、見ることも触れることもできない「ほんとうの身体の物的部分」についての情報とする(身体知覚論)
- 俺の心のなかにある、「ほんとうの身体の物的部分」についての情報は、「ほんとうの身体の物的部分」各所から、電気信号のかたちで、脳までやって来て、そこで俺の心のなかの「身体の感覚(部分)」に変換されるとする(情報伝達論)
- そして「ほんとうの身体の物的部分」で、心の関与無しに物質的出来事が起こるとし(身体を機械とし)、その瞬間その瞬間の「ほんとうの身体の物的部分」の物的状態が、脳によって、心のなかの「身体の感覚部分」に変換されるとする
このように、事の発端である「絵の存在否定」という不適切な操作から順に見てきますと、「ほんとうの身体の物的部分」での物質的出来事を、「身体の感覚部分」の関与無く起こるものとする(身体を機械とする)のがいかに不適切であるかがよくわかります。「絵の存在否定」とは、いまこの瞬間に俺が松の木の姿を目の当たりにしている例を用いて申しますと、その瞬間に俺が目の当たりにしている松の木の姿と、その瞬間の俺の「身体の感覚部分」とを、それぞれがその瞬間に在る場所に在るのは認めるものの、「ひとつの世界絵に共に参加している」もの同士とは認めず、事実に反して、「ひとつの絵に共に参加している」ことはないもの同士であることにすり替える不適切な操作でした。事の発端が、事実に反するそうした不適切なすり替えにあるとなればとうぜん、その発端から必然的に帰結する見解はことごとくすべて不適切であることになります。
したがって、俺が体験するものをすべて、俺の心のなかにある像とすること(前記2)も不適切であれば、「身体の感覚部分」を、俺の心のなかにある、見ることも触れることもできない「ほんとうの身体の物的部分」についての情報とすること(前記3)も不適切であるし、また「ほんとうの身体の物的部分」についての情報が、「ほんとうの身体の物的部分」各所の受容体から、神経、脳を経て俺の心のなかに伝達されてくるとする情報伝達論(前記4)を説くことも、「ほんとうの身体の物的部分」で物質的出来事が、「身体の感覚部分」の関与無く起こるとすること(身体を機械とすること)(前記5)も、ことごとくすべて不適切だという結論になります。
身体は機械ではありませんし、そのことをみなさんも実によくご存じであるにもかかわらず(chapter1で確認しました)、科学は事のはじめに「絵の存在否定」という不適切な操作を為すがために、不適切にも身体を機械とすることになるという次第です。
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