*あたらしい知覚論をください第1回
見る、聞く、匂う、味わう、触れる、といった知覚体験についてあたらしい論を手に入れようというのが今回の狙いである。よろしくお願い申し上げる次第だ。
ひとによって異なった色に見えるドレスの写真がたしか昨年あたりネットで話題になったと記憶している。金色に見えるか、青色に見えるか、意見がわかれるドレスだったと思うが*1、そのドレスを共通の話題としてみなさんとおしゃべりを楽しんでいる最中にもし俺がこう口を差しはさんだとしたら、そのときひとはどうお思いになっただろうか。
みなさん、そもそも物体には色なんてないんだぜ、と。
俺は水を差すフトドキものとして激しくdisられただろうか。それとも気の利く発言ができるヤツとしてモテはやされただろうか(ンなわけなかろう)。
ともあれ、誤解がないようにしたいところではある。存在には色がないと言って聞かせてくれるのはあくまで科学である。最初にそう言い出したのは哲学者だと言うべきだろうけれども。
- 作者: デカルト,Ren´e Descartes,谷川多佳子
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2008/01/16
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俺なんかが存在には色がないと言うと、腹をかかえてお笑いになる方が続出してこられるが、科学が言うとなれば話はべつに違いない。参考になる記事をご紹介しておく。その記事では科学者が色についてこう説明しておられる。物体には色はない。色は、みなさんの脳のなかにあるものだ、と。
科学がこのように、ほんとうは存在には属していないとして存在から剝ぎとるもののうちには、いまあげた色のほか、存在の容姿(どこから見るかで変わる存在の姿)、音、匂い、味、感触、がある。科学はこれらを、みなさんの心(現代科学の最先端である脳科学にとって心とは脳のことだが。以下略)のなかにある像とする。みなさんの心のなかに脳がこしらえあげるものにすぎないとする。
つまりこういうことだ。
科学の知覚論では、みなさんの心の外部と、みなさんの心の内部とを考える。みなさんが松明(いまどき?)のメラメラと火柱をあげている姿を目の当たりにする場合なら、みなさんの心の外部に実在する松明と、みなさんの脳がみなさんの心の内部に作りあげる、松明についてのコピー像とを想定する。そして、みなさんの心の外部に実在する松明から、その松明についての(視覚)情報が、光に担われてみなさんの眼までやって来て、そこで電気信号にかたちを変え、視神経を介して脳に至るという情報伝達経路なるものを想定する。で、脳がその情報伝達の最後に、その情報から、みなさんの心の外部に実在する松明についてのコピー像をみなさんの心の内部に作るとする。コピー像をこのようにみなさんの内部に作る際、脳が、ほんとうは松明には属していない、容姿(色を含む)を、そのコピー像につけ加えるとするわけである。
科学の知覚論ではこのように、見る、聞く、匂う、味わう、触れるというのは、みなさんの心の外部に実在するもののコピー像をみなさんの脳がみなさんの心の内部に作りだすことであるとする。そうしてコピー像を作る際、みなさんの脳がそのコピー像に、ほんとうは当の存在には属していない、容姿(色を含む)、音、匂い、味、感触、をつけ加えるのだということにする。
今回の冒険旅行では、こうした科学の知覚論にとって代わる、あたらしい知覚論を手に入れようというのである。
では、魅力あふれる冒険ヤロウたち、さっそく行こう、とみなさんに申し上げたいところではあるが、イロリを取り囲んで座しておられるみなさんは訝しげな表情で先ほどからずっと俺をご覧になっておられる。その表情で、脚絆を巻きつけている俺にこう尋ねておいでである。
「お前さんがいま確認してみせた科学の知覚論で十分ではないか。なぜそれにとって代わるあらたな知覚論を追い求める必要が俺たちにあるというのか」と。
あたらしい知覚論を求めて出発する前に、その無言のご質問にお答えするべく、まず俺は口べたなりに言葉を連ねようと思う。科学は、見る、聞く、匂う、味わう、触れるといった知覚を、みなさんの脳がみなさんの心の内部に、存在のコピー像を作りだすことと説くと先ほど申し上げた。科学が知覚をそう説くに至る事の発端は、俺が考えるに、存在を実際とは別の何かにすり替えるところにある。最初にそのすり替えへみなさんと一緒に、にぎり飯を持ちながら飛び、そこで、あたらしい知覚論がぜひとも必要になる事情を確認するところからはじめることにしたい*2。
このシリーズ(全8回)の記事一覧はこちら。
*1:参考記事「白金ドレス、覚えてますか? 今度はジャケットめぐり大論争」
https://www.buzzfeed.com/jp/catesish/what-color-is-this-jacket-bfj
*2:2018年10月12日に、内容はそのままで表現のみ一部修正しました。