*原因をさがし求めて第7回
しかし、この原因確認法にも別の問題があるのである。
この原因確認法でいま、物質Aが、がん細胞を生じさせる原因なのかどうか、確かめた。けれども、物質Aは本当に、がん細胞を生じさせる「原因丸々ひとつ」なのだろうか。物質Aが、がん細胞を生じさせる原因の「一部分」でしかないということはないのだろうか。
こういうことをいま言おうとしてる。
たがいによく似たもの同士であるグループをまず2つつくった。そして片方のグループだけを物質Aにさらした。で、時間が経ったあと、各グループ、どれだけのものにがん細胞ができたのか調べてみた。すると、物質Aにさらされなかったグループのほうが、がん細胞のできたものは少ないとわかった。したがって、物質Aにさらされなかったグループの被験者たちの身体のなかには、がん細胞を生じさせる原因は存在しなかったと確認できたことになる(物質Aにさらされなかったのに、がん細胞ができた少数者の存在はえげつなくも無視するわけである)とさきほど書いた。
さきほどはそう書いた。
だがよく考えてみると、それはまちがいだったのではないだろうか。物質Aにさらされなかったこのグループからは、がん細胞のできたものが少ししか出てこなかったという、このことから言えるのは、ほんとうはこういうことではないのか、つまり、このグループの被験者たちの身体のなかには、がん細胞を生じさせる「原因丸々ひとつ」はなかったが、原因の「一部分」くらいはあったかもしれないということである。原因は分子として想定されていて、部分をもつ。ならば、このグループの被験者の身体のなかに、がん細胞を生じさせる原因の「一部分」くらいはあったかもしれないと考えるのが筋なのではないだろうか*1。たしかに物質Aにさらされなかったこのグループの被験者たちの身体のなかに、がん細胞を生じさせる「原因丸々ひとつ」はそろっていなかった。しかし、がん細胞を生じさせる原因の「一部分」くらいはあったかもしれない。いやむしろ、原因の一部分すら無かったと断言できるだけの根拠はひとつもない(がん細胞を生じさせる原因の「一部分」しかないため、がん細胞はできてこない)。
では、もしこのグループの被験者たちの身体のなかに、がん細胞を生じさせる原因の「一部分」くらいはあったとすればどうなるだろう。
このグループの被験者たちと、〈物質Aにさられることになるグループ〉の被験者たちのあいだには当初、物質Aにされされるか、さらされないかしか、ちがいがない。よって、〈物質Aにさられることになるグループ〉の被験者たちの身体のなかにも、もともと、がん細胞を生じさせる原因のこの一部分はあったかもしれないということになる。そんななか、〈物質Aにされされることになるグループ〉の被験者たちを物質Aにさらすと、がん細胞のできたものの数は、このグループでのほうが多くなった。ようするに、〈物質Aにさらされることになるグループ〉の被験者たちの身体のなかにはもともと、がん細胞を生じさせる原因の「一部分」があり、そこに「物質A」がはいってきて、がん細胞を生じさせる「原因丸々ひとつ」がそろうことになった。で、この原因丸々ひとつがじっさいに、がん細胞を生じさせた、と考えられるようになるわけである。
このように物質Aは、がん細胞を生じさせる原因の「一部分」でしかないのではないか。原因の残り部分はまだ特定されていないのではないのか。
原因の残り部分を特定しなければならない。
が、ここでは結論だけを言うと、原因のこの残り部分は、どうがんばってみても特定できはしないということなのである*2。
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