(新)Nothing happens to me.

科学には人間を理解することが絶対にできない理由がある

はじめに2015年版

 科学は世界がどういうものか説明してくれます。私は本格的に科学に触れたとき、科学のその説明に驚きをおぼえました。ほんとうに心底びっくりしました。そして今でも科学の世界観に驚きを禁じえません。


 科学の世界観に私が覚えたのは驚きだけではありませんでした。戸惑いも覚えました。科学が説いてみせている世界は明らかに、私が生きてきた世界のことではないと、科学にふれてすぐ私は直感しました。しかしなぜ科学がそのような世界観を提示するのか、私にはわかりませんでした。科学の世界観を疑っている自分を疑ったときもありました。非常に愚かで恥ずかしいことですけれども、自分がよく知っている日常の世界を世界と思って生きていけばいいのか、それとも科学が示してみせる世界を世界と思って生きていいのか、真剣に悩みました(そんなことにはこだわらず気楽なきもちで生きていくしか道はなかったのだと今さみしい気持ちで考えています)。


 世界観がどうのこうのなんてくだらない話なのかもしれません。しかし私は、今自分に見えている景色を言葉でスケッチしていくことにします。きっとヘンテコな言葉であふれかえることになるでしょう。またスケッチはただのシミと見分けのつかないシロモノになるかもしれません。


 けれども私はかすかに信じています。いかに拙い言葉であっても、おなじ景色を見たことのあるもの同士のあいだでは通じるのだと。

ヨーロッパ諸学の危機と超越論的現象学 (中公文庫)

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行動の構造

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知覚の現象学 〈改装版〉 (叢書・ウニベルシタス)

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(了)