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科学には人間を理解することが絶対にできない理由がある

ポール・オースター『幽霊たち』(ネタバレ注意)

 ポール・オースターはニューヨーク三部作をきっかけに、一躍、作家として注目をあびることになった。この小説はその三部作の第二作目にあたる。実在の人物(オースター本人)以外は、色の名前をつけられて登場する、そんな中編小説である。


 第一作目の『ガラスの街』(シティ・オヴ・グラス)は当時、作者がうんざりするほど、ミステリーとして扱われたという。しかしこの第二作目にも探偵が出てくる。彼が主人公である。


 その名はブルー、彼の仕事上の恩師はブラウン、依頼者はホワイト、ホワイトの依頼から主人公が監視することになるのはブラックである。


 主人公がひそかに監視するなか、ブラックは部屋のなかでなにかを書いたり、なにかを読んだりする毎日をすごす。これといってなにも事件は起こらない。主人公は依頼の意味をいぶかりながらも、依頼者ホワイトの指示どおり、ブラックの様子を報告書に記して送る。こうして単調な日々だけがすぎていく。


 ところがあるとき、ホワイトのもとに送られていたはずの報告書を主人公はブラックの部屋のなかに見つけることになるのである。


 依頼者ホワイトはブラック本人だったのか? だとするとブラックはブラック本人についての調査、報告を主人公に依頼し、自分自身のことが記された報告書を読んでいたということになる。それはまたなぜ?


 著者ポール・オースターの誕生日に主人公がホワイト(ブラック)から依頼され、そのあと何年も続けることになったというこの奇っ怪な仕事はいったい何なのか? その仕事には何か隠された意味でもあるのか。


 第二作目もミステリーではない。が、サスペンスではある。

幽霊たち (新潮文庫)

幽霊たち (新潮文庫)

 
(了)