(新)Nothing happens to me.

科学はボタンをかけ違えたまま来たのではないでしょうか。

読んだ本についてすこしばかり

ガンバって何か書いてみようと思いましたが……

中島敦『幸福』

「ぐうぜん、中島敦(1909年〜1942年)さんの『幸福』って小説を読みましてね。うちのカミさんが、クッキー持ちよってやるいつもの読書会でつぎの課題図書になってるとか言って読んでまして、あたしも横からのぞき見したって次第です。 「それにしても、びっ…

ハイデガー『形而上学入門』/4.第三章 

(3のつづき) 捜査本部はながらく存在の行方を捜査している。けれどもこのかた捜査にはまったく何の進展も見られず、ついにこのたび捜査責任者のいれかえが行われることになった。新たに捜査本部のトップに着くことになったのはハイデガーである。 形而上…

寺田寅彦「物理学と感覚」

みなさんはどうだろうか。以前の私はというと、事実を事実のままに捉える学問だと科学のことを思っていたのである。事実を事実のままに捉える学問だと思いこんだまま、科学の本を手にとっていた。事実を事実のままに捉える学問であれば本の中身を理解するの…

世界内存在と現代科学

ハイデガーというと、「世界内存在」といった哲学者として有名である。「世界内存在」とは世界のうちにいることという意味である。しかし私たちひとりひとりが「世界内存在」であり、手もとの手帳やペンといった物もまた「世界内存在」であるというのはあま…

ポール・オースター『ガラスの街(シティ・オヴ・グラス)』(ネタバレに少しだけ注意)

ニューヨークは言わずと知れた、世界の中心である。 その街角を行きかうひとびとはどういう気分でいるのだろう。彼らは世界中からその都市によせられている、いくたの熱い視線に気づいているのだろうか。その熱い無数の視線のさきにいる自分自身をどう見てい…

ポール・オースター『幽霊たち』(ネタバレ注意)

ポール・オースターはニューヨーク三部作をきっかけに、一躍、作家として注目をあびることになった。この小説はその三部作の第二作目にあたる。実在の人物(オースター本人)以外は、色の名前をつけられて登場する、そんな中編小説である。 第一作目の『ガラ…

ポール・オースター『孤独の発明』

『孤独の発明』はポール・オースターの、初めて出版された小説であるらしい。1982年初版ということは、彼が35歳くらいの時の出版である。 小説冒頭、彼の父親が亡くなったことから話ははじまる。「父の死を知らされたのは三週間前のことだった」(同書、柴田…

マルカム・ブラッドベリ『超哲学者マンソンジュ氏』

マルカムに先をこされた。それがこの著『超哲学者マンソンジュ氏』についての私の偽らざる感想である。 超哲学者マンソンジュ氏 (平凡社ライブラリー) 作者: マルカムブラドベリ,Malcolm Bradbury,柴田元幸 出版社/メーカー: 平凡社 発売日: 2002/05/01 メデ…

柴田元幸、高橋源一郎『小説の読み方、書き方、訳し方』

これは今まで誰にも言ったことのない秘密だが、私は変化球を投げることができる。それもかなり鋭い変化球を。そして、このことが私の生きる上での自負になっ……。 「それ、前に書きましたよね? もう導入部として使用済みですよ」 え、うそ?! 「高橋源一郎…

高橋源一郎『「悪」と戦う』

いきなりですが、みなさんは悪と戦っていますか? そこのなぜか白衣を着ているキミはどうですか? 「え、僕ですか? そりゃあ、もちろん戦っていますよ! 最近はSNSでも力いっぱい、悪を批判する活動にいそしんでいます。SNSの力はすごいらしいじゃないです…

高橋源一郎『大人にはわからない日本文学史』

誰にも言ったことはないが、私はかなり鋭い変化球を投げることができる。比喩で言っているのではなく、正真正銘、野球のあの変化球を投げられるのである。こんな私でも日々なんとか生きていけるのは、鋭い変化球を自分は投げられるのだという密かな自負があ…

高橋源一郎『一億三千万人のための小説教室』

ふと気がつくと、グラウンドの上で走っているのが、自分ひとりであることに気づくことがあります。(高橋源一郎)*1 一億三千万人のための小説教室 (岩波新書 新赤版 (786)) 作者: 高橋源一郎 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 2002/06/20 メディア: 新書 …

ハイデガー『形而上学入門』/6.番外篇〜脳科学は存在証明をなしえていない〜

(4のつづき) 重箱の隅をつつくような、どうでもいい問題をとりあげているのでは決してないのである。私たちの日常生活に関係のない話しは一切していない。むしろ、生々しい生活の一面について終始私たちは触れているのである。 「ウソだぁ」 ウソではあり…

ハイデガー『形而上学入門』/3.第2章「ある」という語の文法と語原学とによせて

(2のつづき) 第一章の、「存在」という言葉は幻であるという驚愕の結論を受けて、第二章以降ハイデガーは、「ある」という言葉を考察していく。第二章までしか読み終わっていない今の段階ではその考察について何も言えないが、その何も言えない今のうちに…

高橋源一郎『ジョン・レノン対火星人』

大学で関西出身の友人がひとりできた。関西人と知り合いになったのはそれが初めてだった。今でこそ、「上方文化」はテレビなどを介して日本各地に浸透しているが、私が学生の頃はまだ、上方はそれこそ異国の地である。興味津津で彼に近づき、観察し、いろい…

ハイデガー『形而上学入門』/2.第1章 形而上学の根本の問い(続)

(1のつづき) 彼は、現にそこここにある存在とは違った、別の存在を考えているのである。 彼が想定するその存在は、「問う前に既に眼の前に与えられている存在者から無媒介に出発」するのでは捉えられないものなのである。 そしてその別の存在があってこそ…

ハイデガー『形而上学入門』/1.第1章 形而上学の根本の問い

ハイデガーがフライブルグ大学、1935年夏学期の講義のために用意したテクストを印刷したのが、この『形而上学入門』(平凡社ライブラリー、1994年)であるそうだ。書名からするとこの講義は、形而上学に入門するしかたを説いたもののように思われるが、はた…

高橋源一郎『さようなら、ギャングたち』

「いやぁ、妻が、着ていく服がないと言ってね」 「だってぇ」 「鏡のまえで、服を着たり脱いだりでもうほんとこまっ」 「も〜やめてよ〜」 「あれあれ、ちょっと待ってくださいよぉ」 よれよれのレインコートを着た男がこの夫婦をさえぎって言う。 「奥さん…

木田元『ハイデガー拾い読み』①

ハイデガーは嫌なヤツである ハイデガーが「ハイデガー」であるためには、ハイデガーはぜひとも嫌なヤツでなければならなかった。まったく、嫌なヤツでなければならなかったに違いないのである。それも超ド級の。 しかし、これだけ永くつきあってきながら、…