*短編集「統合失調症と精神医学と差別」から短編NO.27
でも、それと同時に、そうした自分の閃きや発想が、疑わしく思えてきても何らおかしくはなかったのではないでしょうか。要するに、その足音は実は、珍しく階上にやって来ていた妹のものだったのかもしれないと、他の可能性にもおのずと思いを致すことになっていても何ら不思議はなかったのではないでしょうか。
実際、小林さんのことを案じて、妹さんが様子を見に来ていたのかもしれませんよね(もしくは、夢のなかで足音を聞いただけかもしれませんけど)。
しかし、そのとき家のなかには他に妹さんしかいなかったにもかかわらず、小林さんからすると、その時刻に妹さんがその階段を駆け降りたりするはずはなかった。いや、いっそ、小林さんのその見立ても、少々語弊があるかもしれませんけど、こう言い換えてみることにしましょうか。そのとき小林さんには、妹がその階段を駆け降りているはずはないという自信があったんだ、って。
いまこう推測しましたよ。
深夜、ドア向こうの階段を駆け降りていく足音を聞いてギョッとし、とっさに、つけ回してきている奴らではないかと閃いた。
家のなかには他に妹さんしかいなかったが、妹さんがその階段を駆け降りているはずはないという自信がそのとき小林さんにはあった、って。
なら、そんな小林さんは最終的にその足音を、つけ回してきている奴らのものにちがいないと決めつけることになりますね?
いまの推測を箇条書きにしてまとめるとこうなります。
- ①政府に日中つけ回されたと思い込んでビクビクしていた小林さんは、夜中、「誰かがあわててドアの向こうの階段を駆け降りていく音がした」のを聞き、つけ回してきている奴らではないかと、とっさに閃く(とっさに一可能性を思いつく)。
- ②妹さんがその階段を駆け降りているはずはないという自信がある(他の可能性を不当排除する)。
- ③当初の閃きにしたがって、足音を、つけ回してきている奴らのものだと決めつける(勝手にひとつに決めつける/現実を自分に都合良く解釈する)
2020年9月22日、2021年10月5,7日に文章を一部修正しました。
*今回の最初の記事(1/6)はこちら。
*前回の短編(短編NO.26)はこちら。
*このシリーズ(全43短編を予定)の記事一覧はこちら。