*医学は喩えると、空気の読めないガサツなおじさん第2回
えっと、それで大木の話のつづきですけど、いまみなさんと俺、歩いているじゃないですか。たとえばもしこのとき俺の目のまえにさっと誰か背の高いひとが入ってきたらどうなると思います? 大木は、そのひとに遮られて俺には見えなくなりますね? つまり大木は、そのひとの身体ごしに、姿まるまる全部を「見えないありよう」にしますよね? ほら、他人の身体がどこにどのようにあるかによっても大木の姿は変わるじゃないですか。
大木は、「他人の身体と共に在るにあたってどのようにあるか」という問いにも逐一答えるって付け加えたほうがよくないですか、ね?
話のもっていき方、強引? う〜ん、頭が痛いなあ。
でも、頭痛は横に置いておきましょうよ。で、大木についてこれまで確認してきたことは何を意味しているのか今度は考えてみましょうよ?
みなさん、何を意味していると思います?
俺はこう思います。大木は、「他のものと共に在るにあたってどのようにあるか」という問いに逐一答えるものなんだってことを意味しているんじゃないのかな、って。この「他のもの」のうちには、確認してきましたように、太陽や雲や風やといった物のほか、俺の身体や他人の身体、さらには空いた場所や、音、匂い、味などが入りますよ。
いや、それだけじゃないな、そこには、俺が記憶している過去体験や予想している未来体験も含まれるんじゃないかな。
◆「他のもの」のなかに入る過去体験記憶像・未来体験記憶像
考えてもみてくださいよ。
いま大木に向かって歩いていますよね? 俺、どの瞬間でもつぎのふたつのことを同時にしているじゃないですか。
- これまで大木に向けてどのように歩いてきたか、過去体験を記憶している。
- これから大木に向けてどのように歩みよっていくか、未来体験を予想している。
たとえば、大木に向けて歩き出すまえに遙か前方を見やったときのありさま、俺ずっと忘れず歩いていますし、大木の真下に着いたあと頭上に目の当たりにすることになるだろう景色をずっと予想しながら歩いてもいますよ。
以後、俺が記憶している過去体験のことを過去体験記憶像、俺が予想している未来体験のことを未来体験予想像とよぶことにしますね。
大木は、「他のものと共に在るにあたってどのようにあるか」という問いに逐一答えるものなんだってさっき言いました。その「他のもの」のなかには、太陽や雲や風やといった物のほか、俺の身体や他人の身体、さらには空いた場所や、音、匂い、味などに加えて、こうした俺の過去体験記憶像や未来体験予想像も含まれるんじゃないですかね?
ちょっと確認してみますね(以下しばらくのあいだ、話がややこしいかと思います。次頁の最後まで読み飛ばしてもらっても全然問題ありませんよ)。
俺、さっきから大木に歩みよっているじゃないですか。終始俺、大木の姿を目の当たりにしていますよね。大木は姿を刻一刻と大きく、かつ、くっきりさせていっていますね。でも、みなさんと最初に約束を交わしたという記憶がなかったら、大木の姿はそんなふうに刻一刻と大きく、かつ、くっきりしていなかったんじゃないのかなあ。みなさんと最初に約束したじゃないですか、状況・最小単位説っていうのが何なのか一緒に見ましょうって。俺がそんな約束をした過去体験を記憶していなければ、いまごろ俺の目のまえでは、ブラウン管の向こうでグラウンドを駆け回るベイスボール・プレイヤーの姿が大きくなったり、小さくなったりしていたんじゃないのかなあ。みなさんとそうした約束を交わした過去体験を記憶していればこそ、いま俺の目のまえで、大木の姿は刻一刻と大きく、かつ、くっきりし得ているんじゃないのかなあと俺、思いますけど。
大木は、「他のものと共に在るにあたってどのようにあるか」という問いに逐一答える。その「他のもの」のなかには俺の過去体験記憶像も含まれるってことでいいですかね?
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